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十年一生 その2
 200年経ったら、どんな未来だろう? 実際にどうであるかはともかくとして、そのくらい先のことを夢みながら過ごしていたい、そんな思いが、心のどこかにずっとあります。同じような考えを持つ人と出会う機会にも恵まれ、勇気づけられることもありました。

 それなのに、「(新規就農して、柑橘栽培が)きちんとできるまで、10年はかかる」という事実が、なんだか途方もないことのように思えてなりませんでした。

 これはとても、分かりやすい問題なのです。
 柑橘は果樹なので、苗木を植えてから実がなるまで数年、そして、収量と味わいが十分になるまでさらに数年、ひとつの園地を植え替えた場合には、それを経済栽培の段階まで持っていくのに大体10年というのが、このあたりの一般論。生計のバランスはどのように保っていくのだろうか。台風などによる、その間の自然災害のリスクコストも馬鹿になりません。
 そういう苦労をして育て上げた成木園を他人に譲るというのは、なかなかできないものです。苗木を育てているいま、それがなおさらよく分かります。つまり柑橘の新規就農者に回ってくるのは、作業性などの問題で栽培を継続するのがしんどくなったり、老木ばかりであったり、あるいは害虫被害によって、経済的な見込みの少なくなった園地ということが普通で、結局はすべて植え替えていかなければなりません。10年はかかる、ということになります。
 新たに農業を始めるといった場合に、ここが、資産のある農家の後継者と新規就農者の大きく違うところです。Iターン者であれば、農地ばかりでなく、倉庫やその他の設備、住宅に至るまで、すべてが投資の対象なのですから。

 けれど僕たちは、農業を始めるための10年と、きちんと向き合ってみようと思います。
 少々へこたれつつ、悶々と悩んできたこれまでの日々、その間の素晴らしい出会いと再会、僕たちの経験や単純なキャリア、評価されてきた能力、田舎で暮らす意味と総合的な価値、そういうものを全部大切にしたい。それには、ここで腰を据えて生き抜くことが大事なのだろうと、あらためて考えました。そしてこここで暮していくのならば、やはり農業に携わるべきだと思います。長期計画で、きちんとやっていける体勢を整えていこう、と決めました。

 そのために(わ)は、外に働きに出ます。当月より勤務が始まります。まとまった年月のあいだはそれを続けて、月々の安定収入を図ることにします。
 僕は、就農当初に引き継いだ、もともと経済的自立の見込みのない園地を中期計画で伐採・植替えをしていって育て上げていきます。子どもたちの外への進学の始まる10年後くらいを目安に、農業部門をしっかりした段階に持っていくことを目指します。

 シミュレーションとしては、いくつものパターンで案を立て、ここを離れて、別の地で生計を立てることも真剣に考えました。けれど最後には、柑橘を中心とした、この果樹栽培が好きだという、素直な気持ちに立ち返ることになりました。そして有機栽培、さらにこのところ志向を強めている自然栽培というものには、追求するだけの価値が、やはりあると思うのです。僕たちなりの運動論、まちつくりの基軸にしていきたいと、(わ)と二人で考えています。
 やり切れるかどうか分かりません。大丈夫かもしれないし、ダメかもしれません。その選択と真剣に向き合えること、そこへひたむきになれること、それは農家としてのかけがえのない自由です。いまはそんな気分。

 実はこれは、インド・コルカタに住んでいたときの、『(わ)主人+(ゆ)主婦』の変形型スタイルとも言えるのかもしれません。僕たちの捉え方としては、地元で農業に携わるということは、『家』に拠点を置く主婦にとって、とても都合のよい生き様。
 今後の練習もかねて、家事の分担を始めました。お風呂と夕食の準備は、僕がおこなうようにしていますが、やはり楽しい。インド・コルカタで過ごした豊かな記憶が甦ってくる。共働きで、子どもの送り迎えをこなしつつ、慌ただしく台所に立つ母の姿も思い出される。あったかいご飯の中にある幸せ、これは200年後だって、きっと同じはず。

 子どもたちが保育所に通い出し、(わ)の通勤が始まり、僕は自分たちの農業を見つめ直す、僕たち家族としては大きな転換を迎えます。焦ることなく、大事に大事に過していきたいと思います。そして次の1年をかけて、まずは状況を整理して、しっかり足の地面を固めます。力合わせて踏ん張っていきます。
 結果的には、これまで発送してきた柑橘の中に、しばらく出荷できないものが出てきます。毎年楽しみにしてくれている人もあり、申し訳なく、また心苦しいところです。これは僕たちの思いとして、説明をきちんとさせてもらいたいと思っています。

 皆さまにも、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。


なんち屋(ゆ)
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