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幕明け
 東温市の田舎の集落を訪問しました。この10月まで、西予市の第二次総合計画策定にあたっての審議委員を務めていたのですが、その同僚として知り合ったSさんの自宅があります。

 同行したのは、愛南町柏地区に暮らすNさん。Nさんは、愛南町との境界部、その宇和島市側に建ち並んだ、南愛媛風力発電所(事業者:電源開発株式会社)の大型風車が稼働し始めて2週間ほどで、低周波音症候群の症状が出始めました。いわゆる「風車病」に違いありません。最寄りの風車から2km以上も離れている自宅内で、特徴的な低周波音が観測されています。
 もう1年以上も苦しんでいることになります。あまりの辛さに耐えかねて、とうとう移住することを決意しました。その希望先として名前のあがった東温市に僕のつてがあったので、紹介したというわけです。Sさんに集落の状況について意見を聞き、いくつか物件を見て回るための訪問でした。

 風車が隠れるような霧がかった曇りの日の夜、パッと窓からの空全体が光って、雷かと思って飛び起きた。航空灯の光だった。それで稼働が始まったことに気づいた。
 それから何日か経って、ひどい頭痛を感じるようになった。眠れない。頭の中で、ジーッと鳴っている。耳鳴りとは違う。ジーッと鳴っている。風車から遠く離れた場所にいても、頭の中ではジーッというのが残っている。辛い。とにかく辛い。今日は特にひどくて、2時過ぎに目が覚めて、それからずっと起きている。この自覚症状が始まって、しばらくはこんな感じだったが、松山のホテルに泊まったとき、本当に久しぶりにぐっすり眠れた。これが低周波音症候群というやつだと教えてもらえなかったら、ずっと歳のせいか何かだと、分からないまま苦しんでいるだけだった。

 愛南町まで行って、はじめてNさんに会ったとき、こんな話を聞きました。コーヒーカップを持つ手が、ずっと震えて止まらないようでした。感情のためではなくて、おそらく症状のひとつでしょう。「こんなに辛い思いは、他の誰にもしてもらいたくない。だからどこへでも話に行くよ。あなたたちのように若い人たちが、風車のことを真剣に考えていることを、偉いなぁと思うわ」と、励ましの言葉をもらいました。
 とても明るい人。雑音があるとまぎれるようで、夜はテレビをつけっぱなしなのだとか。隣で眠るご主人のために、夜中はイヤホンをつける。「だからスピードラーニング始めたのよ。そのうち英語しゃべれるようになるわー。ははは」、なんて言う。愛南町からの帰り道は、つい運転が荒々しくなってしまいました。怒り、であったと思います。

 Nさんは、症状が悪化したのか、あるいは過敏になっているのか、冷蔵庫から発せられる低騒音が、頭の中で鳴り止まないジーッという音と同じように聞こえるようになってしまったのだとか。どこかへ出かけた帰り道には、「あそこに帰るのかと思うと、ものすごく気が重くて・・・」と言います。
 低周波音症候群のやっかいなところは、被害の個人差が極めて大きく、しかも発症するのがごく少数という傾向があること。社会問題として認識されにくいのは、そのためかもしれません。ひとつの家庭内でも、発症してしまった人以外の同居家族は全く平気ということが珍しくなく、だから症状だけでも辛いのに、大変な孤独感を伴うもののようです。Nさんのように、他所まで話をしに行くとなればなおさらで、「キチガイ扱いよ」と言います。
 高速を下りて、街なかから、小高い集落へ向かう道すがら、思い切って聞いてみました。「いまは、症状はどんなですか?」「すんごい、好い!」、遠く離れているという安心感も、手伝っているのかもしれません。集落を案内してもらっているあいだにも、「ここには風力発電の話はないですよね?」と、Sさんに質問していました。

 損害賠償や、特に辛い夜間の稼働停止を求めることも検討していました。それには僕たちも一緒になって闘って、全力で協力するつもりでいました。その動きが、社会への大きな問題提起ともなるだろうと、世論を起こし上げることになるだろうと、変な期待も持っていました。
 けれどNさんの辛さは、そんな悠長なことを言っていられる状況ではありませんでした。自分の浅はかさを強く反省します。

 移住に伴う費用は、すべて自己負担です。十数年前に手に入れた、畑地も入れると800坪以上もある資産を手放します。少し前に亡くなったご主人さんが植えていった果樹苗木が育っていて、それが気がかりでならないと言います。
 果樹園芸家として、胸が詰まる。症状の話を聞いただけでも、やり切れない気持ちになるというのに。

 風力発電が、化石燃料の削減や二酸化炭素の排出抑制、あるいは世論からの高い支持のある脱原発につながる、社会で求められる有用な電力を供給できるものであるのなら、自己犠牲として、納得できるものもあるかもしれません。でも、そうでないとすれば・・・。
 ある程度の情報をもとに、少しシミュレーション、分析をしてみれば、すぐ思い当たること。ぜひみなさんにも、考えてみてほしい。


(ゆ)
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