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空間が威嚇しはじめる
 この2年間、俵津地区にある明浜浄水場の宿直業務に就いていました。当番制で何人かが受け持ち、月に10日ほどの勤務です。

 明浜町に上水を供給するための重要な施設です。宿直業務は防犯のためであったり、停電やその他のトラブルのときに機械を復旧したり、原水質の悪化する時期には、指示を受けて水質調整に携わることもあります。しかし実際は、特に問題がなければ、いくつかの簡単な記録を報告するだけの業務です。「お前、あそこで何やってんだ?」「昨日はじっくり本を読んで勉強していた」なんて答えることもたびたび。
 さてこの宿直業務が、この3月いっぱいで終了しました。ご時世で、人件費を削減していく必要があったようです。管理をおこなう部屋には監視カメラが設置され、機械も自動復旧するよう、この1年でシステム化されていきました。

 それは仕方のないことかもしれませんが、3月に入ったある日、僕の当番で出勤したところ、正職員との引継ぎの際、「門を閉める時に気をつけて」と言われ、はて何事かと案じました。聞くと、もうすぐ宿直者がいなくなるので、有刺鉄線を取り付けたとのこと。時間が来て戸締りに行くと、脇の金網塀にまで、銀色の真新しいトゲトゲがきれいに這わされていました。
 とたんに寂しさが募る。人間が関わることをやめることで、空間からは温もりが消え去っていく。冷たくなる。やがてそれに慣れてしまったり、気づきもしなくなったとき、人間の心にも何かしらが消耗されて、それで平然となってしまうのでしょうか。

 夕日にキラキラして、鉄線がなお一層、刺々しく感じる。いつもは駆け足で上り下りする入口の坂道を、その日は重い足取りで、腕を組んで、寒気をしのぎながら戻っていきました。


(ゆ)
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