焼畑文化プロジェクト その3
(す)が山村留学している先の小学校行事に参加した帰り道、時間に少し余裕があったので、『山の神』の勉強を進める中で関心を寄せていた諏訪神社に立ち寄ることにしました。このときは上社本宮へ。

奈良田での最も大切な日の一つに、1/21の「カンムリオトシ」がある。山の神が弓を引く日とされ、決して山に入ってはならぬ、とされている。山の神が冠を振り落とすくらいに弓を射る、という。
一方、「冠落とし」とは、7年に一度の御柱祭の行事の一つで、斧取りが御柱の先端を三角錐状に切り落とす儀式。僕が調べた限りでは、このほかに刀剣の造りの一つに「冠落」がありますが、それ以外には〝カンムリオトシ〟という言葉は見当たりません。早川の谷から峠道を越えた先には諏訪神社も多く、奈良田での山の神信仰と何か関連があるのだろう、と思い続けていました。

諏訪上社本宮に立てられていた一の柱
(諏訪上社本宮に立てられていた一の柱)


上社本宮には、この6月に迎えられたばかりの御柱が立てられていました。頭部を三角に整えられ威厳を備えた一の柱は、本当に格好良かった。運が良かったのは、立てられたばかりで、先端の御幣が綺麗に残っていたこと。その姿が、〝オホンダレ〟と重なる。
〝オホンダレ〟の片方には、頭部に〝削り花〟が添えられている。〝削り花〟は、紙の御幣へと移行していく過渡期の状況、と見る考えがある。〝オホンダレ〟が門口などで役割を果たすのは7日間、〝御柱〟は7年ごとに新たに迎えられる。拙速は良くないけれど、この〝七〟という数字にも、ピンときた。

真室川町歴史民俗資料館に展示されていた〝山の神人形〟
(真室川町歴史民俗資料館に展示されていた〝山の神人形)


諏訪上社本宮を訪れてから2週間ほどして訪れた最上地方の真室川町。真室川町歴史民俗資料館に展示されていた〝山の神人形〟は、〝おぼこ人形〟のような人形型のものと円柱(丸太)型のものとがあった。その後、職員さんに案内してもらった真室川町内の平地部の山の神社に奉納されていたのは、古いものでは江戸時代のものもあるそうですが、2箇所とも全て円柱型でした。
案内してくださった方の話では、人形型の〝山の神人形〟は、訪問した真室川町では、奉納する山の神社(祠)が山の上にある地区のスタイルとのこと。資料館で展示されていたのは、そうした山の上に山の神社がある地区のものでした。余った時間で、一人で見学した隣町の社に納められた〝山の神人形〟は、すべて人形型でしたが、周囲からするとやはり山間部でした。そして興味深いのは、資料館で見た円柱型の〝山の神人形〟は、頭部が三角、あるいは三角錐状に削り落とされていました。案内してもらって見学した平地部の山の神社に奉納されていた円柱型の〝山の神人形〟にも、頭部が切り落とされていたものが多くありました。
「山の神勧進」は春の節句におこなう地区と、小正月におこなう地区とがあり、人形型であれ円柱型であれ、山の神社に奉納する〝山の神人形〟は主に親が手作りし、子どもの成長を祈って、〝災い〟を避ける〝身代わり〟として納めるのだそうです。この祈りは、奈良田で小正月に贈る〝おぼこ人形〟にも通じるように思います。

案内してもらった田んぼの広がる平地部の社に納められていた〝山の神人形〟
(案内してもらった田んぼの広がる平地部の社に納められていた〝山の神人形〟)


ここからは全くの僕の想像に過ぎず、ただの備忘録としてここに記しておくのが目的ですが、人形型の〝山の神人形〟は、山で狩猟をしてきた人たちの山の神信仰と関係するもので、山に入るときや山小屋で過ごす時に携えた「さんすけ」に由来するものではないか。そして丸太を削って顔を描く円柱型のスタイルのものは、諏訪神社の御柱のような、山作りや木地師といった木を伐り出す人たちの山の神信仰と関係するような気がしてきました。そして、それぞれが〝おぼこ人形〟と〝オホンダレ〟のルーツに関わるものかと。
こうして、奈良田の〝おぼこ人形〟も〝オホンダレ〟もやはり、〝山の神〟と関係するものなのではないか、という思いを強くしたわけです。厳密な分析ではないにせよ、自分の生活実感から太古にまで思いを馳せて意識してみるというのは、今後の地域づくりの上で大切なことだし、また僕にとってはロマンチックな時間。すでに奈良田ではどんな意味があるのかよく分からなくなっているものの、狩猟神としての山の神と、樹木神としての山の神、それが〝おぼこ人形〟〝オホンダレ〟というカタチで、どっちもスタイルとして残っているとすれば、やっぱり奈良田は面白い! 長距離移動でヘトヘトになりながらもウキウキしながら帰ってきたわけです。

『焼畑文化プロジェクト(仮)』とは、単なる懐古の念からのものでも、また情報発信のためのネタ作りでもありません。それは長いスパンで循環する地域づくりのプロセス。近年、集落の若手も主体的に参画して、盆踊りの復活にもつながった奈良田民謡と踊りの保存・継承の取り組みにも生かされていくでしょう。
新潟県村上市山北地区では、火入れでも参加させてもらう予定で、これからときどき訪れることになるでしょう。そしたら最上地方にもまた行く機会ができるかもしれません。今度はもっと勉強してから、しっかり見る目を携えて、いろんな〝山の神人形〟を見てみたい。


(ゆ)
| カテゴリ: ヘロホイ |
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