How to

第3章.撮影編(フィールドにて)   

第5回.サクラの撮影

その2


3.デート

a.アップで
 前回は、どちらかというと引き気味に彼女を狙ってみましたが、いよいよ初のデートです。 長いお付き合いになるでしょうから、最初からしげしげと眺めたりするのは、エチケット違反 です。まずは、ステキな面を見つけだすつもりで接することからはじめましょう。
作例 3-41:
無補正
共通データ
カメラ:EOS1D、 レンズ:100〜400mm(310mm)、絞り:f5.6、絞り優先AE
作例 3-40:オオカンザクラ +0.3補正 作例 3-42:+0.7補正
 作例は、この季節に多い花曇りの天気です。斜光線ですが比較的日差しは弱められて いますので強い影にはなっていません。楚々とした枝振りの良い枝先の花から撮り始めて みました。密集したあたりでなく、群れとは離れた個性的な枝を捜してみましょう。
 サクラの花を撮る際の注目点は、やはりほのかにかおるピンクの色合いでしょう。背景には、 好みもあるでしょうが、先ずは空抜けでの例で、最初ですから0.3EVずつの ブラケティング撮影で様子を見てみます。
 作例「3-40」、結果的にこの +0.3EV補正が正解でした。露出計は圧倒的に多い空を拾って います。この条件で撮影して補正無しでいけるカメラはまだまだ無いはずです。 マルチパターン測光で測っていますから、この程度の補正値で済みましたが、 カメラの測光モードやカメラそのものの癖などにより、結果には大きな差が出ますから、 ご自分のカメラで実際に撮り比べて良く把握しておく必要があります。
 「3-41」は補正無しの画像で、さすがに影の部分も暗く沈んで、華やいだ感じからは遠く なりすぎです。
 「3-42」:+0.7EVと多めの補正ですがこちらを正解としても良いほどです。空の色などは こちらの方が抜けが良く見えます。しかしブラケティング撮影をしていたおかげで、迷えた わけで、撮影時に不安が残るようなら、是非トライしてみてください。著名なプロの方々も 取り直しの利かない画像などでは用いている撮影法です。

作例 3-43:カンザクラ 無補正  作例 3-44:-0.3補正
共通データ カメラ:EOS1D、レンズ:100〜400mm
(235mm)、絞り:f5.6、絞り優先AE
 作例 3-45:+0.3補正
 
 斜光線で光が当たっている太い幹を面積で2割程度入れて、背景も中間トーンの常緑樹を 同じく全体の2割程度混入させた絵です。空も真っ青で見るからに適正露出が計測できそうな 勘の通りに補正無しの画像が一番的確に写せています。
 このような構図にすると、カメラも迷うことなくさくさくと撮れる見本です。

b.散った花も

 華麗に魅了して咲き続けてくれた花びらが潔く散った後も絵になるシーンを捜しだし、 有終の美を飾るもてなしにも付き合いましょう。
 桜の花は物理的な衝撃などがない限り、満開を過ぎるまでは、風雨に負けて花びらが 散ることはありませんが、ひとたび満開の時期を過ぎると、儚くも微風にも散り始めます。 また地面や水面に落ちた花びらは、鮮度を落とし、見るも無惨な色へと変貌を遂げますから、 散ったタイミングを定めて、撮影に出かけましょう。
 満開後の夜半に春の嵐が通り過ぎた早朝が狙い目です。

 作例 3-47:
カイツブリ
共通データ
カメラ:EOS1D、 レンズ:100〜400mm(400mm)、絞り:f5.6、絞り優先AE、+0.7補正
作例 3-46:オシドリ♂  作例 3-48:カイツブリ
 3例とも、同じ日の撮影です。このような時に効率よく撮影ポイントを廻ることができる ように、池や地面で荒らされずに花びらが残っている場所を普段から心がけて探しだして、 おくことです。同時に水面の場合は、そこの表面水の流れ具合もチェックを忘れずに。 条件の良い桜の枝が必ずしも池上に伸びていなくとも、落ちた花びらは、表面の水の流れに乗り やがては、一定の溜まり場所へと流れ着くものです。水鳥の羽などが多数固まってある場所は 要チェックです。フィールドノートにきちんとメモを取っておきましょう。
 「3-46」はいわゆる溜まり場所ではありませんが、池の縁に咲くシナレンギョウの花色が 水面に写り込み何とも言えぬ良い色に輝いている場所で、オシドリがやってくるのを待って、 撮影した画像で、幸いにも流れの上手方向に写真には撮りにくいものの、サクラが咲き誇って ハラハラと散っているタイミングで、色合いのアクセントに程良い量がちりばめられた絵に なりました。
 黄色は、露出計には見た目以上に輝度が高いと捉えがちなので、光量不足になりがちです、 おまけに鳥の羽色も平均色より濃いめなので、桜の花びらの色飛びには目をつぶり+0.7補正を 掛けて撮影しました。
 この場合なども、判断に迷ったらブラケティング撮影することをお勧めします。
 「3-47」は、カイツブリが吹きだまりに溜まった花びらの中からひょっこりと水面へ 顔を出した時居合わせたので撮影できた1コマです。ほぼ順光であまり直射日光も当たって いない条件だったのと、水面に浮いた無数の花びらがちょうどレフ板の役割をしてくれたようで +0.7の補正値での撮影でしたが、影も潰れずに適正露出で撮れた例です。運も実力の内とは、 よく言われる言葉ですが、まさにラッキーな出会いでした。
 「3-48」、先ほどとは別の場所で、カイツブリが餌を探して小さな川エビを銜えて水面に 浮上したシーンの絵です。タイミング優先ですから顔の向きやサクラの花びらなどのバランスを 意識しながら、ハイスピードモードによる連写で流して撮った内の一コマです。
 半逆光による水面の照り返しなどちょっぴり判断に迷う場面ですが、経験的に+0.7補正で 通しました。


▼ブラケティング撮影
 段階露光のことで、露出を決定する要素が多すぎて、適正値の判断に迷った場合に、何段階 かに、露出値を分散させて撮影する方法。
 メーカーにより表記方法は異なるものの、たいていの中級機以上のカメラには機能として 付いています。もう一度カメラの取扱説明書を紐解いて、マスターしましょう。
 一般的には絞り値やシャッタースピードを適正と思われる値から前後させて合わせて 3コマ 撮影します。機種により補正値も0.3EV毎か、0.5EV毎かの設定変更や、+側のみあるいは−側 のみにするなどの変更もできるようになっています。
 また特殊な例として絞り値とシャッタースピードは一定のままで、ISO感度のみを前後させた 撮影や、デジカメの場合は、ホワイトバランスを変えながら撮影する機能なども あります。

▼ホワイト・バランス
 光源によりあるいは色かぶりなどの影響で色温度が様々に変化することは基礎編で触れ ました。今までの銀塩カメラの場合はフィルターで調整するしか方法が無く臍を噛むことも、 ところがデジカメは簡単にコマごとに調整ができるようになっています。
 私たちが色を見る場合、一旦目からの情報を頭の中で判断し考えた上で見たという意識が 働きます。この間に脳の中で、これまでのデータベースと照らし合わせて見たものが何で あったのか? 色は何色だったか? 質感は?……等々の 答えを総合して見たと判断し、 経験上から、微妙な色の変化もある程度は補正を加えてしまいます。従って白い紙を 見たら本当は赤っぽく見えたとしても、少し本来の白に戻るように努力をして見たよという ショートメールを発信するのです。この白い紙を写真に撮る場合、赤っぽいままで表現法が 的確ならそのままの撮影で済みますが、やはり白い紙はどんな条件の中でも白く表現されて いないと本来の目的をなさない場合は、何らかの補正を掛けて色温度を変えてあげなければ ならないことになり、この調整のことをホワイトバランス調整と言います。

▼マルチパターン測光(……そっこう)
 ニコンFAにより、製品化され今日の主流となった測光法で、それまでの中央重点測光平均測光スポット測光などに比べてより複雑な計算やデータ集積の結果 生まれた。
 メーカーにより呼び名は様々でキャノンでは評価測光と称しています。
 平均的にを浴びた順光時は比較的容易い適正露出算定も、ひとたび輝度が高い被写界深度が 画面の中に入ったり、小さな被写体に空抜けの背景、完全な逆光時の撮影など、様々な条件に より変わる露出値決定のために、画面内をいくつかのゾーンに分割してそれぞれ評価し、 総合的に算出するシステムで、ミスしがちな典型的作例などもマイコンの中に数多く記憶させて 精度を高める工夫がなされている。
 当然メーカー毎、カメラの種類毎に癖が顕著に表れるため、飲み込んで置いてから使い こなさないと、難しい面もあるが。それまでの測光法より精度は格段に上がりよりパーフェクト に近い形になりつつある。
 がしかし、これとて完全無比では無いために、このような講座が必要になるわけです。 <宣伝>

▼中央重点測光(ちゅうおう・じゅうてん・そっこう)
 通常の撮影では、被写体を中央付近に配置することが多くなります。従って極端なアップ画像 意外周辺部は、背景と判断し、露出値計測もこの中央部分を重点的に測ろうと考えたシステムで ごく一部の極端な構図や背景部分に輝度がきわめて高いものが入り込まない限りは、 それなりの正解率で適正露出が得られるため、マルチパターン測光が普及するまでは、もっぱら このシステムが主流の座に着いていた。現在ではこの測光法が残っているカメラの方が一眼レフ などの特殊カメラ以外では、あまり見られなくなっている。

▼平均測光(へいきん・そっこう)
 画面の中に明るいものや、暗めのものがある程度均一に分布されると判断し、細かな変化には 目を瞑って考えられた測光法で、今では全くと言っていいほど見かけることがなくなった。
 あくまでも平均で測光演算するため、広角レンズ撮影などで、ひろい情報を撮る場合は精度が 高くなるが、望遠レンズなどにより、情報量が少ない状態での撮影では、平均という考え方から して、やはりズレは否めない。

▼スポット測光(……そっこう)
 平均測光では誤差が大きく出過ぎ、かといって中央重点測光でも極端な輝度変化には対応が できないために、画面上の中央ごく一部分を計測してしまおうと考えた測光法。
 この測光法単独では、回りの状況には目を向けない一人よがりな測光値になるため、 唯我独尊の哲学で臨む写真ならまだしも、一般的には参考程度にチェックする割り切って おいた方が無難なような気がします。充分に理解した上での活用でないと、狙ったつもりが 精度悪く隣の席の女性にラブレターを送りつけるような結果に陥ります。

▼フィールド・ノート
 撮影時に特に必要だと言うモノでは無いように思えますが、これは欠かせない必須アイテム の一つでしょう。特に立派な手帳である必要はありませんが、ページが後々バラバラにならない ノートが最適でしょう。文字だけでなく絵などのスケッチでも表現できるようなものが、飽きが 来なくて良いと思います。市販の小型のポケットに入るようなノートで充分です。
 日記などと同様、他人に見せる必要は無いので、文章として書く必要もありません。思いつく ままに、箇条書きにメモを取ればよいのです。
 最低限日付、天候、観察あるいは撮影場所、屋外にいた時間表示、同行者程度は記すように して、他に観察していて気が付いたことや、感想、出逢った出来事なども書いておくと、後から 見てもその時の状況が思い出されて何かの役に立ちます。
 本来は、撮影の立場からすれば、撮影時の様々なデータを記入するのが目的ですが、補正値や ストロボ有無、レンズの種類などはデジカメの場合 Exifデータとして、自動的に カメラに記録されますから、敢えて記入するする必要は無いかも知れませんが、慣れるまでは 意識してメモを取る習慣を身につけた方が良いと思います。メモを取るということは、意識して その数値を確認することにも繋がりますから、不注意なミスを未然に防ぐ効用もあります。

▼Exifデータ(イグジフ………)
 デジカメ専用の情報を盛り込んだデータのことで、デジカメが撮影時の各種情報(日付、 ファイルナンバー、シャッタースピード、絞り値、露出補正値、ホワイトバランス値、 ストロボ有無、レンズ焦点距離、測光モード、ISO感度、カメラ機種名など)をひとりでに 記録してくれるシステムで、メーカー各社まちまちな規格が当初乱立していたが、現在は 規格が統一されて容易に情報読み出しができるようになっている。