How to

第3章.撮影編(フィールドにて)   

第4回.サクラの撮影


1.恋心

 今回は、春の花木代表とも言えるサクラを撮ってみましょう。1月の末頃沖縄では、今年 最初のサクラ祭りが行われ、桜前線が北上を開始します。5月の連休と共にソメイヨシノが 津軽海峡を渡り北海道に達するまでの4カ月間。いよいよ今年もサクラのシーズン 到来です。
 サクラそのものについては、もちろん皆さんご存じでしょうから、詳しいことは省略 しますが、バラ科のサクラ属に属し、名前が付いているものだけでも、400種、名前が付かない ものまで含めると 1,000種ほどあるそうです。いわゆる原種と呼ばれる10種の桜から 自然又は人工交配されて、これだけの数になったようですが、そもそも「サクラ」とは、 「咲く」に群れをなしている様を表す接尾語の「ら」を付けたという説や、「さ」は穀物の 魂を、「くら」とは神が宿る依代を意味する言葉など、諸々の説があるようです、 古くからサクラほど日本人の心とマッチした花木は無いでしょう。
 皆さんもこれまでに数多くのサクラを題材にした写真を撮っているはずですが、思い通りの 画像は得られましたか? もう一度原点に立ち返って、今年こそこれはという、サクラの写真を ものにして欲しいと思います。

作例 3-33:ソメイヨシノ 1 作例 3-34:ソメイヨシノ 2 作例 3-35:ソメイヨシノ 3
カメラ:EOS1D、レンズ:100mm、
絞り:f4.5、絞り優先AE、+0.7 補正
カメラ:EOS1D、レンズ:100mm、
絞り:f4.5、絞り優先AE、+0.7 補正
カメラ:EOS1D、レンズ:100mm、
絞り:f16、絞り優先AE、+1.0 補正
2.捜す

a.遠目に
 恋する気持ちと同様、お気に入りの花を見つけることからスタートです。
 綺麗な青空をバックに見上げで迫ってみるのも良いでしょうし、回りの雰囲気を取込み、生活 感も垣間見られる撮り方もあると思います。もちろん桜が咲いたからといって、必ずしもサクラ を主題にする必要は無いはずです。サクラを副主題に贅沢な撮り方だって良いではありません か、自由な発想であなたの思い描いた愛しい人「サクラ」を表現してみてください。

 筆者の近所には、高名なサクラがあるわけでもなく、樹形を見通せるような良い条件の サクラもありませんので、適切な全体画像をお見せすることができません。
 仕方なく、引き気味の画像をお見せします。3例とも池の水面を組み合わせて、サクラとの 対比で見せた画像です。
 「3-33」は、池の対岸に咲く桜を面として捉えてみました。花の背景は陽が当たらない暗めの 木々や地面なので補正を+0.7と、多めに掛けて、花色が暗くなることを嫌いました。
 「3-34」も、先の例と似た画像で、先ほどの絵は敢えて面状に見せる箇所を切り取りましたが、 こちらは立体的にボリューム感のある低層部と比較的まばらな上部と対比がおもしろそうなので 組み合わせてみました。先の例ほど暗くはない背景ですが、暗めの部分の面積が大きくなるため +0.7の補正を掛けてあります。
 被写体までの距離がかなりあるので、ズームレンズの開放絞り(f4.5)で上 2例は、撮影して います。小さな画像なので分かり難いでしょうが、ピントの合ったところと、ぼけたところで 多少なりとも立体感を残しています。この場合絞ってしまうと、被写界深度が深くなり過ぎて 余計に平面的に見えすぎてしまうからです。
 「3-35」は、順光で水面が空の青さを写し爽やかだったので、水を広めに入れた絵です。
 まだ残っているカモがまとまった頃合いを見はからいシャッターを切りました。サクラを 主題にと言うよりカモの方に狙いを付けています。サクラの面積も狭く水面も輝度が高く、 露出を引っ張りそうなので、+1.0とかなり多めに露出を掛けました。
 この場合は、望遠レンズとはいえ、手前のサクラから中景のカモ、そして遠景の建物までを 広く見せたかったために筆者としては珍しく絞り値を大きく(f16)しています。
作例 3-36:ケヤキ芽吹き 作例 3-37:ナノハナ
カメラ:EOS1D、レンズ:100〜400mm(400mm)、
絞り:f4.5、絞り優先AE、+0.3 補正
カメラ:EOS1D、レンズ:100〜400mm(320mm)、
絞り:f4.5、絞り優先AE、+1.3 補正

b.心の中に

 作例は、主題としてでなく季語として、サクラを扱った画像です。
 「3-36」は、背景にしたサクラのシルエットラインに、ぴったりのケヤキをはめ込んで、 季節のリレーを狙ってみました。ケヤキを浮きたたせる目的でサクラの花自体は少しオーバー 気味になることを許容し+0.3の露出補正を掛けました。
 「3-37」は、菜の花が狙いで、通路を挟んで後に満開のソメイヨシノ並木を取り込み 春らんまんを表現してみました。望遠レンズの効果で背景をグンと近づけたことでより前後の 迫ってくるような一体感が出ました。

 今度の作例は、背景をサクラに、ソメイヨシノを撮っています。
 「3-38」はかなり距離のあるサクラが背景ですが、背景には斜光線が当たり陰影で、立体的に 見えています。主題になる垂れ下がったソメイヨシノは陽が当たらない場所にあるため ストロボをシンクロさせて影起こしをしています。
 一方「3-39」は似たような条件ですが、対岸のサクラは順光で一様に陽が当たり過ぎ平面的に 見える背景に、手前の垂れた枝はシルエット気味に浮かび上がらせる狙いです。ストロボを シンクロさせ、黒く潰れるのを防ぎディテールを見せています。
作例 3-38:ソメイヨシノ 4 作例 3-38:ソメイヨシノ 5 作例 3-39:ソメイヨシノ 6
カメラ:EOS1D、レンズ:100〜400mm
(100mm)、絞り:f4.5、絞り優先AE、
+0.7 補正、ストロボ同調
カメラ:EOS1D、レンズ:100〜400mm
(100mm)、絞り:f4.5、絞り優先AE、
+0.7 補正
カメラ:EOS1D、レンズ:17〜35mm
(28mm)、絞り:f4.0、絞り優先AE、
+0.7 補正
 この場合、手前の枝への光量が充分にあった場合、背景との区別が付かなくなる為に光量は -1EVの減量コントロールしたことが成功の鍵です。
 「3-39」は池に散った花びらと、水面に写り込んだ青空を広角レンズで広く取り入れた例 です。
 先の「3-35」と似たような条件ですが、こちらは広角レンズ(28mm)を用いたために、 被写界深度も深くなることから、絞り値はさほど絞らずに適度なボケの中に回りの雰囲気を 写し込みました。あまりカリカリとピントが全体に合いすぎていると、見ていて疲れそうなので やんわりと、春の印象を大事にした結果です。
 朝 7時前の低い太陽光線の爽やかさも狙い目です。陽が高くなるに連れ地表が熱せられ、 水蒸気が空へ上がり何となくもやが掛かりはじめますから、この季節の早朝は値千金です。 早起きをしてでも狙ってみる価値はありますよ。

▼原種のサクラ(げんしゅ…………)
 いわゆる原種は、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラ、 ミネザクラ、マメザクラ、エドヒガン、チョウジザクラ、ミヤマザクラ、カンヒザクラの 10種で、この中で一番長寿な種がエドヒガンとされ、1800年〜2000年などという途方もない 年齢のこの種があると言うことです。また枝垂れザクラとしてもて囃される種もこの変種と される。

▼依代(よりしろ)
 神霊が招き寄せられて乗り移るもの。樹木・岩石・人形などの有体物で、これを神霊の代りと して祭る。かたしろ。よりまし。<広辞苑>

▼影起こし(かげ・お……)
 画面中に記録できる明暗の差は、撮影媒体の特性により異なりますが、基礎編の所でも難解な 文章で説明したとおり、真っ白から真っ黒までの 5EVが基本と見なされます。
 当然両極端の明るさに見える物体は、白飛び黒く潰れて共に質感や ディテールは失われてしまい、一般的に写真表現としては嫌われます。必然的に白飛びを無くす 方向(マイナス補正)に露出値を補正して、撮影を行いますが、一方の黒く潰れた箇所は、 より一層潰れる面積を広げてゆきます。この場合に影となって黒く表現される部分を、 補助光で明るくする手段のことです。この編の第2回に撮影小物として紹介したレフ板も この役目をするものですし、ストロボも同様な用途として用いることができます。

▼白飛び(しろ・と…)
 画面中で的確な色再現ができず過度に露出オーバーな状態で、通常は明度が明るめの色に 起きやすい。
 的確に白のディテールを再現する勉強として、色白の女性に白いブラウス、白のスカーフを 首に巻かせ、頭に白の帽子をつけさせ撮影してそれぞれの白の質感をいかにして表現させるかと 言ったようなトレーニングを行う。

▼黒潰れ(くろ・つぶ…)
 白飛びの反対現象で、暗部のディテールが露出不足により潰れて見えなくなることを 言う。
ポートレートの場合は、髪のディテールが潰れることを一番嫌う。黒装束の衣装を纏ったモデル 撮影でトレーニングを積むと良い。