How to

第3章.撮影編(フィールドにて)   

第3回.花木の撮影


1.質感表現

 質感を表現する方法について考えます。まず質感から連想される言葉を思い浮かべ、 共通項からいくつかのグループに分けてみました。

 硬さ(柔らかさ)を表すグループ:ごちごち、ふんわり、しなやか、ふにゃふにゃ…
 厚さ(薄さ)を表すグループ:ぺらぺら、
 重さ(軽さ)のグループ:ずしり、ふんわり、
 温度を表すグループ:ひんやり、あつあつ、ぬくぬく…
 湿気(乾燥)表現のグループ:ぐっしょり、じめじめ、しっとり、ぱりぱり…
 平滑度を表すグループ:ざらざら、つるつる、すべすべ、ふさふさ…
 張り具合を表すグループ:ぴーん、ぼわぼわ、ゆるゆる、しわしわ…

作例 3-19:逆光(ウメ) 作例 3-20:順光
作例 3-21:逆光(ウメ) 作例 3-22:順光
共通データ カメラ:EOS1D、レンズ:100mm、 絞り:f5.6、絞り優先AE、+0.3 補正
 ちょっと思い浮かべただけでも結構出てきましたね。さてこれらの形容詞を写真を通して、 表すとしたらどういう方法を用いるのが、最も適しているでしょうか?
 作例 3-19、21は、逆光で一重の花弁を透過した光がこの画像の決めポイントです。透過光は、 このように被写体の表面の具合、厚さや素材情報まで丸ごと表現できる光といえます。
 それにひきかえ「3-20、22」は、順光側からの撮影で、反射光のみの情報からは被写体の 中味を調べようとはせずに、表面の質感だけを送り返して寄こすのです。極端に言えば、 ツバキの葉っぱもシソの葉っぱも皆同じ扱いです。このあたりは、撮影者が画像のなかで、 何を表現したいかによって、使い分ける必要があることを示しています。
 続いて、レンズの画角描写です。「3-23」は、上の 4例と同じ100mmレンズで、およそ70cm ほどの所から写し、背景は 4m先にある別の木のぼけです。「3-24」は、35mm広角レンズで 撮影した絵で、画面上でほぼ同じ大きさになるよう40cmまで寄って撮りました。
 共に順光気味の斜光線で撮ったので、花びらの細かな皺や花弁先端の反り返りによる陰も写り 込み、花の形状(奥行き感)が的確に表現できました。
作例 3-23:順光(ウメ 1)100mmレンズ、絞り:f5.6 作例 3-24:順光(ウメ 2)35mmレンズ、絞り:f8
共通データ カメラ:EOS1D、絞り優先AE、+0.3 補正
 広角レンズの「3-24」が、明らかに背景の雰囲気をも取込み映し出しています。しかし一部 デフォルメが正面を向いた花びらで見られます。撮影の時にアングルのズレには、 細心の注意を払う必要があります。少しでも油断をすれば歪んで表現される確率が高くなり ます。
 この形を正しく表現するには、少しでも長めのレンズの方が、描写は素直です。その中でも 特に人間の目が、それとなく注目するときに見つめる場合の画角と、ボケ加減から85〜100mm 程度のレンズがごく自然に見えて、適していると言えます。

 今度の作例は、光線具合は左側からのサイド光でレンズも共通です。ウメの白い花に対して、 背景の色彩がどのような影響を与えるかを比べてみました。
 「3-25」は、あまり日が当たっていない極力暗めの常緑樹の中に入れた画像です。
 「3-26」は、日が当たったサザンカの木を背景に選んでみました。大きくぼけた紅色の花が アクセントにちりばめられています。
作例 3-25:脇光(ウメ) 作例 3-26:脇光
作例 3-27:脇光(ウメ) 作例 3-28:脇光
共通データ カメラ:EOS1D、 レンズ:100〜400mm(400mm)、絞り:f5.6、絞り優先AE、+0.7 補正
 「3-27」は、やはり日がまともに当たっている、明るめの木肌からの反射を背景に しました。
 「3-28」は、完全に空に抜いて写した絵です。花曇りなので抜けるような青ではありま せんが、補正値が効き目無く、蕾の部分は完全に黒く潰れています。
 さてこの中から、どの画像を選びましょうか?
 少なくとも「3-25」や「3-26」のは、どう見てもこのウメを的確に表現しているようには、 見えませんね。白い花の場合は、淡いグレーや薄青い空では、背景の中に花が溶け込んで、 引き立たせる役目をしていないことに注目してください。
 背景はあくまでも、主役の引き立て役が望ましいのでは無いでしょうか? 逆に言えば、 いくら良い被写体を見つけたとしても、背景が馴染まない場合は、主役を食ってしまうことも あると言うことです。
 さて残った前の 2例ですが、「3-25」は、あまりにも背景のトーンが落ちすぎているために、 露出もそちらに引っ張られて、白い花弁のディテールが飛んでしまって、潰れた様に見えます。 従って花びらの質感を的確に表現しているとは言えないでしょう。
 この場合は、「3-26」の中間トーンが白い花びらの質感を上手く表現できたようです。
 この作例は、全て400mmレンズで、2.5mほどの距離から撮影しているので、撮影位置を選ぶ ことでこんなにも(「3-25」から「3-28」まで角度にして 45度ほどの移動です)背景を選ぶ ことができました。これは望遠レンズ撮影で、ワーキングディスタンスを長く取る ことができたおかげです。逆に広角レンズでの撮影だと、先の「3-24」の作例のように、少し 撮影位置をずらしただけで、花の形も違って見えますから、注意が必要になります。




上:作例 3-30:シナマンサク 400mmレンズ
左:作例 3-29:マンサク 100mmレンズ
 
共通データ カメラ:EOS1D、絞り:f5.6、 絞り優先AE、
+0.7 補正
左:作例 3-31:サンシュユ
下:作例 3-32:ウメ
 
共通データ カメラ:EOS1D、レンズ:100〜400mm
(400mm)、絞り:f5.6、絞り優先AE、+0.7 補正
2.主題と副題

 さて、いくつか書いた、撮影法を複合的に花を生かすために活用したい副主題のバリエー ションを上げてみます。
 作例 3-29は、花のサイズが小さいために、多少引き気味にまとめてかたまりで写した例です。 先の白梅の例にならい背景を空抜けにしないよう、黒く沈んだ木の幹を選びました。逆光で輝く 花びらの薄さと枝先にちりばめられた様子を表現しています。
 「3-30」は、花弁も多少大きいシナマンサクで、色も濃い目なのを生かして、トーンが落ちた グレーバックに、枯葉をアクセントに透けて絵になる枝を選んでみました。
 「3-31」も、似たような処理法で、花だけではパンチに欠けるため、食痕がある枯葉が残った 枝を捜しています。縦位置で中景にも黄色い花ボケがアクセントに配置しました。
 「3-32」は、花色が鮮やかな場合は、あまり濃い背景に入れてしまうと、濁って見えるために 淡い木漏れ日がボケになる場所に入れ、またアクセントに黒い枝で画面を締めています。
 それぞれ撮影の時に、見合った副題も一緒に捜さないといけないとなると、大変だと 皆さんお考えになるかも知れませんが、これまで多分、上の作例で写した副題はどちらかと いうと邪魔者として嫌っていたものでは、無いでしょうか?
 逆の言い方をすれば、自然界のなかで回りに余計なものもなしに、主題だけ単独であなたに 写されるために待っていてくれることなんてまず滅多にお目に掛かることでは無いはずです。 邪魔者すなわち、副題に成りうる対象物です。狭い感覚で主題だけを見つめずに、広い心で 回りを見渡せば、作品にするための素材は転がっているのですから、まさに宝庫の持ち腐れに ならないよう目をトレーニングして、見極める練習をしてみましょう。
 絵画でも俳句でも、書道でも、もちろん写真でも、最初は模写、物まねが最良のお手本、 練習法です。撮影者が数あるものの中から、何故この主題と副題を選んだのか、心を感じ取って 真似をすることが早道です。決して心を伴わない「猿まね」は、止めましょう。「サル」は 何万年経ても人間には成れません。「真似」ならば、やがてはあなたの「オリジナリティ」と もなり得ますから。


▼デフォルメ(deformer)
 元々は、「変形すること」を表すフランス語ですが、写真では、広角レンズなどで撮影する 場合、極端に寄って写すと、近くのものはより大きく、遠くのものは小さく描写する特質の 結果表される絵柄のこと。

▼ワーキング・ディスタンス(working distance)
 写真では、レンズの先端から被写体までの距離を表す用語として用います。具体的な数字を、 特に表すわけではありませんが、撮影現場では非常に重要な要素になります。
 一般的には、程度にもよりますが、多めの数字を確保できるに越したことはありません。 順光撮影の場合など、撮影者や三脚などの影が写り込んでしまったり、フィルターワークに 支障をきたすこともあります。またどうしてもストロボ撮影をする場合も、クリップオン タイプやカメラ内蔵ストロボの時には、ワーキングディスタンスが短いと、レンズにケラれ て被写体に光が充分に廻らない場合もあります。
 屋外で昆虫などの小動物をクローズアップ撮影する場合には、カメラを近づけると恐怖心から 異常な行動をしがちです、充分にワーキングディスタンスがとれる長めのレンズが望ましいと 言えるでしょう。最近のズームレンズは、単独でかなり接写域までピントが合うように、 マクロと謳った製品も多く見受けられます。予算が許すなら、そういったレンズを使うのも 手だと思います。

▼副題(ふくだい)
 主題に対して、添え物と言うより、重要な要素を担うアクセントのこと。背景が主題を食う とは書いていますが、もちろんこの副題も主題を食ってしまう可能性を含んでいます。
 芝居のことは専門外なので、詳しくは分かりませんが、主役を食ってしまう脇役の話を良く 耳にしますが、そのような脇役が備わっているからこそ、その芝居の幅や奥行きが深くなり、 やがてはその演目そのものの成否までも、左右しかねない要素と言えます。撮影者は映画で 言えばカメラマンだけをやっていては、ダメです個人事業主のようなものですから、監督から ディレクター果ては、プロデューサーそれもアシスタントが頭に着く役目まで、ぜ〜んぶ ひっくるめて個人の采配で決まってしまいます。楽しくもあり、苦しくもあり…の心意気で 取り組んでみてください。

▼ケラれ
 様々な要因から、撮影画面の一部が欠き取られてしまう現象で、画面上では直ちに真っ黒に 写ることは希で、徐々に暗くなる症状として表れる。大別すると、口径喰光喰補助光喰がある。

▼口径喰(こうけい・しょく)
 いわゆるレンズの画角に対して、邪魔なものが侵入して起こるケラれで、レンズの前につく、 長すぎるフード、ハロ切り用の遮光板による例。レフレックスレンズと称する、凹面鏡と 凸面鏡の反射で望遠レンズを構成する製品の正面側中央においた凸面鏡による喰もこれに入り、 ドーナツ状のボケがはっきりと見える。
 また超広角レンズや大判のカメラの、イメージサークル不足による周辺光量落ちも 顕著な例と言える。

▼光喰(こうしょく)
 順光状態で接写撮影をする場合などに顕著に現れる喰で、先のワーキングディスタンスの 確保や撮影向きの加減などにより回避できる。
 広い意味で、日陰での撮影もこれに当たるといえよう。
 拡大解釈すれば、日食や月食も広義ではこれにあたる。

▼補助光喰(ほじょこう・しょく)
 前の光喰が主照明たる、太陽光の遮蔽が原因なら、こちらは補助光を遮ることで起こる 現象。
 写真ランプやレフ板を用いる定常光の場合は、現場で常に確認しながら撮影できる ので、被害も少ないが、瞬間光のストロボで起きやすい。特に接写撮影時の内蔵ストロボや クリップオンストロボなどで…。また立木などの陰にある被写体を狙う場合、木立や枝による 遮蔽も意外に気が付きにくいが、おきがちな現象といえる。

▼定常光(ていじょう・こう)
 ストロボに代表される、瞬間光に対して、一定の光量で照らし続ける照明のこと。太陽や 月の光を含むいわゆる自然光や、写真ランプ、果ては普通の照明もこれに当てはまる。