How to

第3章.撮影編(フィールドにて)   

第2回.芽吹きの撮影


1.太陽と仲良く
作例 3-7:逆光(ネコヤナギ) 作例 3-8:順光
作例 3-9:逆光(ネコヤナギ) 作例 3-10:順光
共通データ カメラ:EOS1D、レンズ:100mm、絞り:f4、 絞り優先AE、
+0.3 補正
 前回の草花についで、木々の芽吹きです。
 比較しやすいように、極力同じ枝を作例の左列が逆光、右側は順光の光線下で撮影しま した。
 基礎編でも光線具合の比較は、書きましたのでおさらいのつもりでご覧下さい。
 銀白色に輝く花芽の色は、間違いなく右列の順光組の再現性に軍配が上がります。形も見る 人に的確に伝わるはずです。
 花芽は冬の間ずっと寒さから守っていてくれた、ケープを被っていますが、この帽子のように 見える赤褐色の芽鱗に注目してください。印象がずいぶん左右で異なって見えま せんか?
 右側は順光で多少白飛びを起こして、なんだか薄ぼんやりとした褐色にしか見えませんね。 それに対して特に、「3-7」などは、帽子を脱ぎかけているため、その頂部は空洞になり薄い 1枚の鱗片を太陽光が透過して、赤褐色に輝き、まるでロウソクの炎のように見えて います。
 一方花芽は、順光だと全体がふわふわとした綿毛の塊にしか見えませんが、逆光側からだと 光が透過できない芯の部分がシルエットで沈み、回りに軟毛が密生する様まで見いだせます。 これが反射光と透過光の大きな違いで、表現上の大きな境目とも言えるでしょう。
 春のこの季節は、空気中にもいろいろな微小物が浮遊しだします。花粉症を引き起こす花粉で あったり、苔類や菌類などの胞子だったりしますが、時としてそれにより、撮影の邪魔をされる こともしばしばで、何となく眠たい画像になることがあります。しかしそれを心得たうえで、 逆光の中に一緒に取り込むと、乱反射した小さな光が、画面の中で輝きだし空気感を 表現する手段となり得ます。



作例 3-11:逆光(ネコヤナギ) 作例 3-12:順光
共通データ カメラ:EOS1D、レンズ:100mm、絞り:f4、 絞り優先AE、
+0.3 補正
2.撮影レンズ

 芽吹きの場合、撮影アングルは基本的に被写体とほぼ同じ高さからの眺めが自然で、最も 適しています。見下ろしや見上げは、作為的に何かを狙う意外は、避けた方が無難で しょう。
 一方のレンズの方は、上手く使えば様々なバリエーションで撮影することができるはずです。 これも、作例で眺めてみましょう。
作例 3-13:100mm(ネコヤナギ) 作例 3-14:30mm 作例 3-15:クローズアップ 35mm
 共通データ カメラ:EOS1D、絞り:f5、絞り優先AE、+0.3 補正
 作例 3-13は、「3-12」までとは、絞りを 0.7EVほど絞って、撮影距離も少し離れて撮影 しました。それだけで、回りの雰囲気が少し分かりはじめています。100mmレンズでおよそ、 1.5mほどの距離から撮っていますが、背景も先ほどまでのような、ボケだけでまとめるのでは なく、中景として被写体から更に 4mほど離れた常緑樹の柔らかな緑のシルエットが感じられる ように入れてみました。もちろん逆光でキラキラと輝く照り返しは綺麗にぼけて、明るい アクセントがちりばめられると予測して、分量も加減をしています。
 いわゆる遠景ボケに対して、手前の冬芽を前ボケのアクセントとし、株元に来るように ファインダーで確認をしながら、構図も決めました。枝1本だけのアップ気味の画像と比べ、 たったこれだけで奥行き感を盛り込めたはずです。

 作例 3-14は、広角ズームレンズの30mm域画像で、60センチほどの距離から撮りました。
 朝の10時頃の撮影で、色温度が上がっていない様に赤味が感じられますが、かえってそれが 良い雰囲気を醸し出しています。このくらいのレンズだと、完全に背景の雰囲気が読みとれ ます。
 「3-13」では、緑色にボケて輝いていた常緑樹の中景も遠景と同じようなボケの感じで見分け がつかなくなりました。広角系レンズ特有の近くのものは大きく、反対に中景以遠のものは 遠ざけてしまう効果が裏目に出たようです。
 画面から受ける印象も、ただ単にネコヤナギの冬芽を撮りましたというだけの、何も印象が 残らない画像になっています。
 そこで、広角レンズを使う常套手段のぐぐっと近づいてパチリ、クローズアップ撮影を 果たしたのが、「3-15」です。筆者の持ち合わせていたレンズが 17〜35のズームレンズで、 最短撮影距離が42センチと中途半端なため、12mmの中間リングを入れてほとんど、 レンズの先端に冬芽が触れんばかりの近さで撮りました。
 絞り値は、3例とも f 5 に設定して絞り優先AE撮影ですが、広角レンズといえども、ここまで 寄ってしまえば、背景も綺麗にボケてくれて、「3-13」にも出ていたような、ハイライト部分の 丸いボケが再び輝いてくれました。
 ネコヤナギの全体を写すので無ければ、中途半端な距離から狙っただけでは、見る人に強い インパクトを与えることはできないと言う見本です。特に広角系のレンズを使用して、狙う 場合は思い切った近接撮影をしないと、印象もぼやけますし、ディテールを伝えることも できません。

■撮影時の便利な小物 2■
e)ゴムバンド
 良い被写体が見つかりましたが、狙い目の美女の脇に、取り巻きがいたとします。あなたなら どうしますか? 「取り巻きの方々も含めて環境よ」と、英断(?)して、そのまま撮影を 続行されますか? 筆者ならさしずめ、バーゲン情報などを教えつつ一纏めにして、退散願い たいところなのですが、現実にはなかなかそうは上手く計算通りには行ってくれませんよね。 そんな時に役に立つのが、このゴムバンドなんです。子供のパンツのウェストを止めていた あれですよ。1m位の長さにカットし、端部を一緒に結んで、輪になるようにしておき ます。
 そこで先ほどのシーンですが、彼女(まだそんなことを言っていますね、ネコヤナギの 冬芽ですよ)の回りにある、邪魔そうな枝をこのゴムバンドで、軽く束ねて両端を別の枝などに 引っ掛けておけばクリアな環境ができあがりです。それならゴムでなくても、紐でも良いの ですが、何故かゴムの方がいろいろと応用が利き、絶対お勧めなんです。なお、撮影終了後は 又元の通り、取り巻きの中に彼女を帰してあげましょうね。他のカメラマンに彼女が見つから ないように、秘蔵っ子として…

f)クリップ
 先ほどのゴムバンドの両端に結びつけておくと、便利さがアップします。枝に簡単にクリップ できるし、トイレで用を足すときの床の汚れが気になる場合も、パンツの裾を止めたりなど、 他にも便利に使えますよ。

g)レフ板
 本格的なレフ板を購入する必要はありません。小さな被写体を狙う場合なら30センチ 四方もあれば十分効果が得られます。そこで材料ですが、理想は画材屋さんに行くと購入できる モデルボードという発泡ポリスチレンをスライスしたボードに白い紙をサンドイッチしたものが お勧めです。厚さは2mmくらいから3、5、7mmとバリエーションが豊富ですから、5mmのものを 手に入れてください。良く切れるカッターで 26X18センチの大きさで 2枚カットして、長辺の 26センチを2枚見開きになるようガムテープなどで貼り付ければ、完成です。
 ここで何故長辺を26センチで留めておいたかというと、アルミホイルの幅が25センチのものが 多いからです。
 地面に屏風のように立てても良し、広げてクリップで閉じないように挟んで枝などに止めれば、 簡易レフ板ができあがります。
作例 3-15:レフ板
 もう少し工作が可能な方なら、見開きの内側の面にアルミホイルを一度くしゃくしゃと丸め てから両面テープで適所貼り付ければ、白紙面と銀紙面の2面レフ板ができちゃいます。
 筆者のレフ板も上記のサイズで、少し厚手のアルミホイルを見つけて、皺付け後貼付して 端部は透明の幅広テープで剥がれないように補強しています。
 モデルボードが入手しにくい場合は、丈夫な段ボールでも同じように作ることができます。 但しその場合は、白い紙も表に貼らねばなりませんが、多少の皺はそれほど神経質になる必要も ありません。そんなものは、写真に写ったりはしませんから。
 クリップは一番右に写っている「ダブルクリップ」という品物です。先ほどのモデルボード 2枚を挟める大きなサイズのものです。ステンレス線の把手部分がクルッと不要なときは反転 させて、挟む物に被すことができるタイプなので、持ち運びの時も邪魔にならなくてGoodです。 3つあると、真ん中の折り目部分も挟んで、きちんと広げて固定できます。

▼芽鱗(がりん)
 冬季冬芽を包み、後に花・葉などになるべき軟らかい部分を保護する役目の堅い鱗片状の葉。 鱗片葉ともいう。

▼鱗片(りんぺん)
 鱗状をした小さな細片。(広辞苑より)

▼空気感(くうき・かん)
 雰囲気と簡潔には表せない感覚で、普段はあまり気にすることなく見過ごしてしまいがちな、 何でもない空気を、透過光の中に見いだそうとする手法で順光状態では見えないが、唯一逆光に 近い状態で塵など不純物の浮遊が多いと見えるように感じる。
 順光だと拡散光が日差しを受けた背景の中に埋没して見分けがつかなくなるが、逆光の時 には、背景の中になじめずに行き場を失った状態。
 結局は見えていないのに、あたかも見えているかのような気にさせるテクニックかも…

▼奥行き感(おくゆき・かん)
 立体的に奥行きのある景色などを写真に写し込む際に、遠景、中景そして近景をバランス良く 配置することで、再現された画像から受ける印象。
 3次元空間を2次元平面に再現するので、多少の無理はあったとしても、3つ目の要素である、 「ボケ」を活用することで、成し遂げられる技法により生み出すことが可能となる。
 古来江戸時代中期以前の日本の絵画には明確な意味での遠近法描写は見いだせませんが、 そうかといって、感覚の中に遠近法が存在しなかったわけではありません。
 竜安寺の石庭に代表される庭園の中には、広く遠近法を利用したと思われる技法が使われて います。奥の方にある石を手前のそれより小さいなサイズのものを用いることで、いかにも 奥行きがあるように見せる技法などがそれで、実践面では使われていながら、絵の方には 生かされていないようです。
 ところが墨絵などには、透視図法的な手段ではなくて、空気遠近法という 技法により、奥行きを表現する術が広く用いられて来ました。

▼透視図法(とうしず・ほう)
 いわゆる遠近法を表現する手段として最も一般的に用いられる技法。古く絵画として ルネサンス期に考え出され、これにより絵画は劇的に変化していったのはご存知だと思い ます。
 それまでは「平面:2次元」として描かれてきた被写体が、奥行きを得て「立体:3次元」 を表現できたといえます。
 無限に近く続く平行な線が奥行きのある空間にある場合、観察者からみて必ずどこかで 交わって収束するように見える点が存在します。その収束するように見える点「消失点」 (=VP:View point)の数により、「一点透視法」、「二点透視法」と「三点透視法」が あります。
作例 3-16:一点透視 作例 3-17:二点透視
 基本は一番馴染み深い「一点透視法」で、画面中の一点に収束するように見える作図法。
 「二点透視法」とは、左右あるいは上下の組み合わせの中から2点消失点がある作図法。
 「三点透視法」は、左右上下の中から3点の消失点がある作図法。

▼空気遠近法(くうき・えんきんほう)

 
図 3-3:模式図 1

 
図 3-4:模式図 2
作例 3-18:空気遠近法
データ カメラ:EOS1D、レンズ:100mm、絞り:f5.6、 絞り優先AE、+0.3 補正
 奥にいくほど色彩や色調が大気の影響を受けて変化することを利用した技法で、実際の景色 でも距離が遠くなるほど色調が明るくなり、かつ青み掛かって寒色に見えてくる。
 作例では山並みが大きく分けて 3本見えるが、一番手前の山並みがコントラストも高く、 黒っぽく奥に行くに従って、徐々にコントラストも落ち、青っぽく明度が上がって来るもの です。
 模式図 1が作例の色をそのまま簡素化して描いたものですが、右の模式図 2は、先ほどの 色彩の組み合わせを逆に、手前に来るに従い淡い色で書いてみました。安心して見ていられる 左に対して、右はなんだか不安定な感じがしませんか? 人間の目は見馴れないものを目に すると何かが違うと無意識のうちに判断してしまうからなのです。
 明度差だけでなく、寒色は収縮色といって、ものが小さく見える色で、反対に暖色系の色は、 膨張色と呼ばれる大きく見える効果も兼ね備えている。ファションなどでは、もはや常識 ですね。

▼中間リング(ちゅうかん………)
 レンズ交換のできるカメラでレンズとカメラ本体の間に入れて、最短撮影距離を短くする ためのアダプターで、メーカーにより「エキステンションチューブ」と呼ぶ場合もある。
 数種類の長さが用意されているはずで、目的に合わせて選ぶと良い。
 接写をするために用いるアクセサリーであるが、小動物を望遠レンズで少し離れた場所から 狙う場合などは、これがあると重宝することがある。
 当然リングの厚さが厚い方が、より近くまでの撮影に適しているわけだが、マスターレンズの 焦点距離により、撮影可能距離が変化をするので、カタログなどで確かめてから購入しないと、 どの組み合わせが最適なのかは、感覚的には、掴みにくいと思われる。
 ちなみに、筆者の作例 3-15撮影時の組み合わせ(12mmのリング装着)では、ズームでワイド 端の 17mmにセットするとフィルター面にぴったりくっついたものでも、ピントは合わず実際 には撮影不能になってしまった。

▼レフ板(……ばん)
 主に逆光撮影時に、太陽光線の反射を影の部分に当てて、陰影差を少なくするために用いる 鏡のようなもの。ガラスや金属鏡面では、光が強くなり過ぎて、当てた箇所とそうでない箇所 との差が大きくつくために、白い紙や、銀色で皺の入った布などを板に貼り付けたもの。
 モデル撮影会などでは、お馴染みの助手さんが持たされている、あれです。
 持ち運びを考えて、折り畳み式のものもアクセサリーメーカーから多数出ている。
 色かぶりに注意しないと、被写体の色温度を変えてしまうおそれがあるので意識して用いる 意外は白か銀色を使うこと。結婚披露宴会場で新婚さんの背景に立っている金屏風は、金色 かぶりがかなり出ますが、あの場合は、特殊条件ですからノープロブレムと許されるで しょう。
 アイドル画像の瞳の中を見ると、必ずと言っていいほど、レフ板が写り込んでいます。 キャッチライトを入れる常套手段だからです。