How to

第3章.撮影編(フィールドにて)   

第1回.草花の撮影


1.撮影アングル

 日溜まりでは、イヌノフグリやヒメオドリコソウの花も咲き出しました。さあカメラを持って 撮影に出かけてみましょう。
 この季節に見られる草花は、比較的小さなものが多いようです。先ずは可憐な花を見つけ たら、いつものように美人な花を求めて、じっくりとあたりを見回して見ましょう。 単独でぽつんと咲いていることは少なく、たいていはその回りにも同じ種類の仲間が見つかる はずです。思い通りの被写体と目があったら、いよいよ撮影の準備に入りましょう。
 広角レンズを使い、ぐぐっと近寄って周りの環境も一緒に写し込むも良し、望遠レンズに 交換して、クローズアップ気味にディテールを重視して写すのも良いでしょうが、先ずは カメラと被写体との位置関係について、もう一度おさらいをしてみましょう。
作例 3-1:ハイアングル(コスミレ) 作例 3-2:ローアングル
共通データ カメラ:EOS1D、 レンズ:100〜400mm(400mm)、絞り:f5.6、絞り優先AE、+0.7 補正
 作例を見比べてください。左のハイアングルは、しゃがみ込んだ高さから撮影して います。右は、地面に敷物を敷いて腰を下ろし花と同じ高さで構えて撮りました。高さにして ほんの50センチほどの差ですが、こんなにも雰囲気が異なった絵になりました。
 今の時期、枯葉の中に埋もれるように咲いているスミレの雰囲気を大切にし、不用意に回りを 綺麗に整理などはせず、雰囲気を残して撮る事も忘れずに。いくら400ミリの望遠レンズと 言っても、そんな環境では直ぐ間近の背景は、綺麗にはボケてくれずご覧の通りです。
 「3-2」は、アングルを少し下げただけで絞り値などは同じなのに、写り込む範囲が変わり、 上手い具合にボケの中に主題を浮かび上がらせることができました。

 次の作例も、先ほどと似た条件です。ここでは花のすぐ左にある枯葉の写り方に注目して ください。「3-3」では、画面の中で、かなりの面積を占めてとてもうるさく感じますが、 「3-4」の方は、アングルを下げただけで、枯葉の見え方に大きな違いが出てきました。
 早い時期のイヌノフグリは草丈も低かったので、「3-4」のローアングルは、地面からレンズの 高さが15センチくらいと腹這いになっての撮影です。そのために写り込んだ背景は、かなり 離れた地面でその結果、綺麗なボケが得られました。
 
作例 3-3:ハイアングル(オオイヌノフグリ) 作例 3-4:ローアングル
共通データ カメラ:EOS1D、レンズ:100mm、絞り:f4、 絞り優先AE、+0.7 補正
 ハイアングルでは、花も見下ろしになり、極端な場合は形までデフォルメされて、頭でっかち に写るかも知れません。被写体が花なので威圧感とは適切な表現では無いかも知れませんが、 少なくとも、仲良し目線では無いように感じます。隣にある枯葉もこの写し方だと、広い面積が 見えることになります。
図 3-1:撮影アングル
 一方ローアングルの場合、花と同じ高さに撮影者が低く構えることで、花に対する親近感にも 似た気持ちが感じられます。ほとんど水平になった枯葉も、見える面積が最小で済みます。
 普段気にも留めないことでしょうが、カメラの画角で見方を変えると、見える範囲も、また ものの形すら違って見えることが、おわかり頂けたでしょうか?


2.撮影レンズ

 次は、撮影レンズの違いによる描写の違いです。
 作例は、2例ともローアングルに準じる角度で撮影しましたが、「3-7」の方は、100ミリ と中焦点レンズで、約60センチ位からのクローズアップです。右の「3-8」は広角系代表の 35ミリレンズで最短撮影距離から撮影したものを、左とほぼ花の大きさが同じになるように、 中央部分をトリミングして掲載しています。
作例 3-5:望遠レンズ:100mm(ホトケノザ) 作例 3-6:広角レンズ:35mm
共通データ カメラ:EOS1D、絞り:f4、絞り優先AE、 +0.7 補正
 違いがおわかりになりますか?
 花そのものも、レンズ描写の違いで、100ミリレンズでは、ほぼ歪まずに正しい形に写って いるのに、35ミリレンズの方は、それぞれの花の角度が開いたように写っていますね。広角 レンズの特徴の一つである、手前のものはより大きく、遠くのものは小さく描写する性質が このようにデフォルメを起こさせてしまったのです。花の場合は、まだ良いのですが、 注意しないと形を見せるものの場合は、あらぬ歪みが起こりがちです。
 この場合の対処法は、光軸に垂直に写したいものを置けば変形からは免れることができます。
図 3-2:レンズによる画角の違い
 画角の違いで、広角レンズの方が広い範囲が写ります。
 そして、被写界深度から、望遠レンズに比べて広角レンズは、ボケが充分とは言えず、回りの 雰囲気も読みとれますから、その点は理解が必要です。ある意味、環境を写し込むつもりで 臨まないといけません。

■撮影時の便利な小物■
a)三脚
 これは、相手が小さな対象物なので、ブレが最大の敵となります。荷物に余裕があり、持って 行けるならあるに越したことはありません。なるべく丈夫な三脚でないと、風が吹いただけで ブレてしまうようなものでは、かえって邪魔なくらいです。
 どうしても、無い場合には、シャッターを切るときに、肘をきちんと固定できる立木や切り株 あるいは柵など、何でも結構ですから、しっかりと当ててぶれないような工夫をしま しょう。
 筆者が、シャッターを切るときは、息を止めたりせずに、ゆっくりと呼吸を整えて、どちら かというと息を吐きながら切ると、気持ちも落ち着き、ブレが少なくなるようです。これも、 経験と自分に合った方法を見つけることが、最良ですが、くれぐれも緊張のあまり、息を止めて 撮影するのだけは、止めてください。
 冗談は別としても、シャッタータイミングを計る場合の、息止めは禁物です。上手い具合に 短時間で済めばまだ何とかなるでしょうが、自然が相手の場合、とっさに何が起こるか 分かりません。風が吹いてくれば、止むのを待たねばならないし、日が陰ればそれも また待ち時間に… そして撮影前後の最終チェックだって、次のシャッターを切る前、 瞬時に行わないといけませんから。

b)レリーズ
 これは、物の本には必ずと言って良いほど、持ち物リストに入っていますね。
 まず少しの風でもぶれる三脚の場合は論外ですが、それでなくとも、三脚のサイズによっては 不用意なシャッター動作でも簡単にブレが発生するものです。実際はよほどしっかりとした 三脚をお使いの場合以外、カメラから手放しでシャッターを切るのはあまりお勧めできません。 最近のカメラは、たいていがAF(オートフォーカス)と自動巻き上げがセットで装備されて います。(一眼レフの場合はそれにもっと振動発生源になるミラーの動きがあります。)そんな 諸々の動きに三脚が耐えられるならレリーズも有効でしょうが、それ以外の場合は、カメラを きちんと固定しておく必要があります。必ず動かないように押さつけておいて下さい。
 シャッターは、何もレリーズを使わなくても、セルフタイマーを使うという手があり ます。
 たいていのカメラのセルフタイマーは、短い時間(2秒程度)と長めの時間(10秒くらい) の2通りから選べるようになっていますから、短い時間セットを利用するのがいいと思い ます。

c)敷物
 これは、お弁当を食べるときにも必要ですが、それ以外にも、しゃがみ込んだりちょっと カメラをおいたりする場合にも、出番は多いものです。ビニールのレジャーシートでも良いの ですが、筆者のお薦めは、梱包の時に使われている、エアークッションです。
 いわゆるプチプチというあれです。ぽかぽか陽気になったとは言え、まだまだ地面は冷たい ものです。お尻を冷やさないためにも、またクッションとしても何かと役に立つはずです。 軽いですし、ダメになったら、新しいものに交換すれば良いのですから。
 ただくれぐれも、風に飛ばされたりしないよう、注意してください。ゴミなってしまうと、 自然に帰ってくれる素材ではありませんので、行方を求めて徘徊する羽目になどならない ように、重しを置いておくことを忘れずに。
 這い蹲って撮影する時、肘を地面に力強く当てるときなど、小石や刺などからもある程度、 守ってくれます。大きさは許す範囲で広めが良いでしょう。小さく畳んで使えばクッション性も 断熱性も増してくれますから。

d)電池類
 気温の問題もあり、また良い被写体に出会えたとき、フィルムの替えは当然ですが、電池類も 持ってゆきましょう。最近のカメラは電池が無くなると、ただの塊です。ウンともスンとも 言わなくなり、手出しができなくなります。コンビニで買える一般的な電池といえども、撮って いる途中で、切れると撮影のリズムも崩れ、せっかくのチャンスも無駄になりかねません。
 また最近の充電式二次電池の場合、完全に使い切ってから再充電を掛けないと、 メモリ効果で充電が完全になされても、途中でバッテリーから電気が取り出せなくなり ます。そのようなときは、当然予備の同種電池を常に備えていないと、不意の電池切れには 対応できなくなります。


▼ハイアングル
 いわゆる、高い位置から被写体を見下ろしながら撮影するスタイルのこと。
 どうしても、背景は地面になってしまい、様々な弊害が生じやすい。
 反対に低い位置からの撮影を、ローアングル撮影という。女性をこのアングルから狙うと、 2つのデメリットが生じます。一つは、異様に脚が太く見えて、後でお叱りを受ける ことに。
 もう一つは、パンチラ狙いのいやらしいカメラマンと間違えられて、誤解を受ける可能性が… 下手をすると、警察からのお叱りが…

▼レリーズ
 カメラのシャッターを遠隔操作でリリースさせるために作られたパーツでその昔、カメラが まだ電気仕掛けではなかった時代には、スプリング付のレリ−ズをシャッターボタンにネジ込み 操作すれば良かったが、最近の電気カメラの場合は、シャッターに掛けられた電気をショート させることで、リリースできる。しかし、電気接点になってからは、コネクターの形状や電圧、 極性など互換性が問題となり、汎用性がなくなりつつある。
 ちなみに、コメント中に出てきた「リリース」と「レリーズ」は共に同じ単語「 release」(:開放する、解き放つもの)から来ています。

▼二次電池
 金属化合物による化学反応を利用して作る電池のなかで、充電によって繰り返し使用できる 便利な電池のこと。鉛やニッケル、リチウムなどが主で、一頃はニッケル・カドミウム (ニッカド)電池が代表とされたが、カドミウムは環境汚染の原因となる有害物質であるため、 現在ではその座をニッケル水銀電池や、リチウムイオン電池に明け渡されています。
 鉛を主に用いた車のバッテリーを代表とする大型電池と、携帯電話にも広く使われる小型電池 の2種類がある。
 金属の種類により特性が少しずつ異なり、瞬発的な大容量を得やすい鉛とニッケルに対して、 歴史の新しいリチウムイオン電池は、軽量なことがメリットとしてあげられる。また電圧は 3.6Vと他の二次電池の約3倍あるため、高電圧が得やすく持続時間は比較的長いものの、 瞬発力のパワーはニッケルには及ばないようだ。
 欠点としては、種類により次に上げるメモリ効果がある。
 乾電池のように使い切りタイプの「一次電池」から区別してこう呼ばれる。蓄電池ともいう。

▼メモリ効果
 ニッケル系(ニッカド、ニッケル水銀)電池などで、完全に放電をしきらずに充電を繰り返し 行った場合、充電をしてもすぐに電池が使えなくなる現象のこと。
 電気を得るための化学反応に起因するもので、リチウムイオン電池はこの欠点が無く、 広く携帯電話などに使われている。