How to

第2章.デジカメ編(カメラの概要について)   

第6回.デジタルワークス


1.デジタルとは

 順序が逆になった感もしますが、そもそも「デジタル」とは何でしょうか?
 デジタル(digital)の語源は「digit」すなわち「指、や(主に)アラビヤ数字」を表し、 アナログとは対として用いられます。
 身近な時計で見てみると、アナログ時計はご存じのように、長針と短針が盤面をなで回すよう に回転して、瞬間光で撮影しない限り、針が一定箇所で留まっていることはありませんから、 私たちは 2本(分単位表示の時計の場合)の長短針の位置関係から瞬時に時を読む必要があり ます。終わりのない右肩上がりの長いスロープを上り続けるようなものと考えると分かり易い でしょうか? 読むには、ある種の経験と学習が必要になってきますが、慣れてくるとおおよそ という感覚で、時間という概念を捉えることができます。
 対して、デジタル時計はアラビヤ数字などの整数値で、時を刻み通常分単位表示の 場合は、次の「分」に至るまで「秒」以下を切り捨て表示されています。喩えれば階段の ステップを 1段毎に上ってゆくような感じです。表示は断片的で誰でも的確に時刻を捉えること ができますが、概念として大づかみに見つめたりすることには、適していないようです。
 一方、自然界の光を例に取れば、明暗の差は非常に微妙な加減で(グラデーション)変化して 私たちの目に届いていますが、このままでは相手には的確に情報を伝える事ができません。
 それを何とか他人にアナログのままで忠実に再現しようと考えられたシステムが基礎編の 当初に書いた、「カメラオブスキュラ」で、今日までに飛躍的な進歩を遂げてきました。
 この時点で、再現機能の点では写真本来の要求は充分に満たしていたものの、贅沢なもので 近年になり従来のシステムでは、後回しとして押しやられていた即時性の要素が特に報道などの 分野で大いにクローズアップされるようになり、期も熟してデジタルの到来を待ちわびる 時になりました。
 「アナログ」のままで伝達を早急にという、試みはもちろん多々ありましたが、最大の ネックは、「カメラの父」とまで言われる
ルイ・ダゲール の化学反応による現像処理という皮肉さ。カメラとして花開いた技術がカメラの前に大きく立ち はだかろうとは、でもソニーによる電気処理が考え出され、暗室作業からの開放で、次なる発展 への糸口に繋がりこれまでのアナログ技術の積み重ねの上に立ち、飛躍的な開発時間短縮と 普及率で世界を席巻したのは皆さんご存じの通りでしょう。
 でもここで注意していただきたいのは、アナログのつまり銀塩写真が即デジタル写真に 取って代わられると言うことを筆者はここで言っているのではありません。本来表現方法が全く 別のシステムでたまたま形と求めている結果が似ているから同列機種として、あるいは開発の面で 共通項を伴っていた方が、有利な点もあり現在の形になってはいますが、これから全く別の 観点から両者の違いや共通点が見直され、新たな展開で発展するだろうと思いますし、見つめて 行くつもりです。
 「デジタル」とは、指の事とは先に触れましたが、「アナログ」すなわち累進的に変化をする 現象を、ある一定の規則毎にデータを計測しその値を数値化したもので、まっすぐに指を伸ばした 指の先が棒グラフのように見える、まさにその表現法なのです。
 写真の場合「ある規則」とは、撮像素子の画素数に相当します。
図 2-7:アナログ情報 図 2-8:デジタル化 1
図 2-9:デジタル化 2 図 2-10:デジタル化 3

2.デジタル化

 図 2-7〜10は、情報をデジタル化する考え方を模式的に表しています。撮像素子の場合は 数も非常に多く説明も煩雑になりますから、音楽に喩えて話を進めます。
 グラフの横軸は時間の経過を、縦軸に情報量を表すものとします。
 「2-7」は原音と思ってください。時間と共に単純なサインカーブを描いて変化して いますが、このときの情報量の総和は、薄いオレンジ色の部分の面積で表現されています。
 ここで、「2-8」の図のようにサンプリング周波数を、決めて各時間毎のデータ量を 随時記録して行き、原音の図に重ね合わせてみたものとお考え下さい。このサンプリング 周波数では単調な原音データといえども、データ変化の周期の1/4にも満たない周波数の為、 的確に再現されているとはお世辞にも言えないシステムで、とても代用品とはなり得ませで した。
 それではと、技術革新をすすめ「2-9」から「2-10」へとサンプリングを細かくすることで、 より原音に忠実に再生させることができそうになってきました。図には描いていませんが、この サンプリング周波数を限りなく大きくしてゆけば、良いことも分かってきますが、自ずとコストの 面やサイズの面から限度という壁が行く手を立ちはだかります。
 そして、その限度の見極めがまた難しい要素としていつまでも残る羽目になるのです。
 ところが、サンプリング周波数を大きくしていっても、最終的にはアナログになるわけでは ありませんので、カーブに均したように見える端部は階段状のままで、ごく希に特殊な聴覚を 持たれた方が表れると、音のギザギザが耳障りなどと言う表現になっていくこともあるよう です。
 さて本題に戻って、写真の場合は先ほどの情報は撮像素子のある 1列を表し、時間の変化を 画素数と置き換えればそのまま読み替えられることになります。
 作例 2-10はこの章の2回目 RAWデータのところで出てきた画像で、トリミング無しのフル 画面をサイズ縮小して載せています。中央に朱色のフレームを入れてありますが、
作例 2-10:全体画像(オシドリ ♂) 作例 2-11:拡大画像(400万画素)
作例 2-12:拡大画像(200万画素) 作例 2-13:拡大画像(50万画素)
共通データ カメラ:EOS1D、 レンズ:100〜400mm(400mm)、絞り:f5.6、絞り優先AE、ストロボ同調
これは「2-11」以降のトリミングした範囲を表しています。全体の約18%ほどで、原板を A4サイズにプリントアウトした写真の原寸大表示に相当するとお考え下さい。アンシャープ マスクを掛けただけで、他の処理は施していません。
 「2-11」:筆者のカメラ EOS-1D のRAWデータのままの画像で、有効画素数 2496X1662 ピクセルの約415万画素から引き延ばした絵です。目にピントが合ってていますし、 同調させたストロボの光源も瞳の中に小さく点像となって輝いています。ピントがずれて いたり、ブレているとこの点光源が、ぼけて大きな錯乱円となったり、流れて見える ので直ぐに判別がつきます。ほぼ同一平面にある鼻腔の下についた雫にもキャッチライトが 点となって光っています。
 「2-12」はソフト上の、200万画素機で撮影相当シミュレーション画像で、先の 4M画像と大差ないよう許容の範囲に見えるかも知れませんが、喉羽の細かな模様付近や嘴の エッジなどにギザギザ感が感じられます。
 「2-13」は一段飛ばして、50万画素機を表してみましたが、ここまで来ると目の回りや嘴が 明確にギザギザで喉羽が市松模様に見えるなど鑑賞には堪えられないレベルになってい ます。
 1996年民生用市販第 1号機のデジカメは確か38万画素だったはずなので、この程度の画像でも、 かつては度肝を抜かれたものですが、それがわずか 8年足らずで今日ですから、日進月歩ならぬ 秒進分歩といっても良いでしょう。
 この作例が、先に出た図にそのまま当てはまるわけではありませんが、順序も含めてほぼ 相当するとして見ていただくと、画素数とデジタルサンプリングの関係がおわかりいただけると 思います。

▼銀塩写真(ぎんえん・しゃしん)
 最近になり急速に用いられるようになってきた表現ですが、元々からある、普通のフィルムを 用いた写真のことで、ハロゲン化銀の化学反応を利用して画像を固着させた例のダゲール写真術 そのものです。デジタル写真が普及してきたことにより、それに比較して用いる表現法です。

▼アナログ(analog)
 物質・システムなどの状態を連続的に変化する物理量によって表現すること。

▼整数(せいすう)
 「1」 から始まり、次々に「1」を加えて得られる数(自然数、正の整数)、及びこれらに 「−1」を乗じて得られる負の数(負の整数)および「0」の総称。負の整数および「0」はインドに 起源がある。<広辞苑>より

▼試み(こころ…)
 ここで言う試みとは、米国ポラロイド社によるインスタント写真システムなどを表す。
このシステムは当初撮影後 1 分以内で写真が完成する、水洗も暗室もいらない処理法として、 インスタント写真と言えば「ポラロイド」が代名詞のように唱えられた。

▼サインカーブ(sine curve)
 三角関数で出てきたあれですよ、高校の数学で習いましたね。
 これでは、解説になりませんから、実践面での説明を…。円周上を一定速度で移動する物体の 位置をその円の中心からの離れを縦軸に、横軸へは時間を表して描く曲線のことで、時間方向へ 山から山(谷から谷)までの距離を周期、縦軸の山から谷までの距離を振幅と呼ぶ。

▼サンプリング(sampling)
 音のアナログ信号を一定時間ごとに採取し、デジタル化が可能な形にすること。

▼サンプリング周波数(……しゅうは・すう)
 サンプリングする際の周期のことで、単位は「Hz」を用い、1秒間に何回採取するかを あらわす。楽曲の場合、これが大きいほど高音の記録が可能で、サンプリング周波数の半分に あたる周波数成分までなら完全に元のアナログ信号に復元することができるといわれる。
 実際は、普通の人間の耳に聞こえるとされる周波数が 2万Hz までなので、倍の44000Hz を 周波数に、現在もデジタル録音で、CDなどのレコーディングがされている。

▼ピクセル(pixel)
 画素と同義。pix(pic:写真の意)の複数形+elementの造語。一般には「ピクセル」と 「ドット」が同義語として使われているが、厳密な意味では各種情報を盛り込んだ 「点」を示し、したがってカラー画像の最小単位はドットではなくピクセルと称するのが正解と いえる。
 カラー画像の場合は、RGBの 3色が 1組になり、一つのピクセルを構成する。

▼ドット(dot)
 ディスプレイやプリンタの画像を構成する最小の点のことで、解像度などを表すときに使用 される単位。本来は色や色深度の情報は含まない「点」を意味する。

▼錯乱円(さくらん・えん)
 少し前の基礎編で書いた点画像が焦点面(フィルム面、撮像素子面)でボケた場合、滲んで 円に見える部分のこと。一定量までならぼけても何とかなると言う、35ミリ判で1/30ミリを許容 錯乱円という。