How to

第2章.デジカメ編(カメラの概要について)   

第5回.デジタルカメラ

その5


6.「ブレ」を科学する

 使い方、撮り方のせいだけで、デジカメがブレやすいと書いたわけではありません。つまり、 このカメラ自体が持っている宿命とでも言うべき特質が大きな原因なのです。
 その特質とは、デジカメ編第3回の冒頭に書いた撮像素子のサイズにも大いに関係があるの です。「ボケ」について、基礎編第2回のところで書いたとおり、画像の中で、いわゆる ピントがあっている部分以外は、多かれ少なかれ像が滲んでいることになります。そして、 その限界の大きさが35ミリ判サイズの原板上で 1/30ミリだと言うことも書いた通りなのです が、これはあくまでも、35ミリ判サイズつまり 36X24ミリの大きさに対して、この数字まで なら大伸ばしをした状態でも、ピントが合ったように見えるということを表しています。
 ここで仮に写真を六ツ切り判(8X10インチ:約10X25センチ)に引き延ばすことを考えて みましょう。
 原板のサイズが35ミリ判ならば、幅を 3.6 → 25センチへと 6.94 倍の拡大率で済みます。 その時ボケの許容値内の 1/30ミリも引き延ばされて、0.23ミリになってしまいますが、まあ ピントが合っていると感じることでしょう、一方 1/2サイズのデジカメからの画像はどうなる でしょうか? 先と同様に幅が 0.88 → 25センチですから 実に 28.4倍もの拡大と言うことに なります。このときぼけた像の直径も同じく 1/30ミリだとしたら、ほぼ1ミリになり、とても ピントが合っているとは言えないないはずです。つまりは、原板サイズが小さくなるときは、 ボケ(数字上はブレも一緒です)の許容値も比例して小さくなる必要があるというわけ です。
 原板サイズが面積で 1/14 と小さな撮像素子の中でのボケ許容値は、35ミリ判サイズの 許容値の 1/√14 倍、つまり 1/30X1/√14=1/112.3 と、とてつもなく小さな値となり、 もうこれは、ピントが合っている所以外は、ボケはまだしも、ブレに至っては 1/100 ミリ 以下の誤差しか許してもらえない計算になります。カメラを持つ手のブレが撮影の瞬間に 1 ミリの 1/100 以下の誤差の静止状態でシャッターを切らないといけないなんて、聞いてない ですよね。そんなこと安易な今までのようなやり方で上手くいくはずが無いではありませんか。 でもこれが真実なのです。
 コンパクトなことが、コスト面で大きなメリットを生むことは、メーカーの都合です。 でもあまりに小さすぎるために、ソフト面では大きな犠牲を払っている計算なのですが、 フィルムカメラなら実質フィルムに費用がかかりユーザーも気が付くのですが、デジカメの 場合はいざカメラを購入した後は、印刷の用紙代+インク代くらいでさほど出費をしていない し、こんなに大伸ばしもしていないので気が付いていないだけなのです。

 とにかく、コンパクトデジカメのファインダーは見にくいので、ファインダー内での作画は やりにくいですよね。筆者も実際コンパクトデジカメを使う時は、液晶を見ながら構えますが、 腕はある程度自分で固定しやすい角度や姿勢を意識して保ち、ある意味通常使っている一眼レフ デジカメよりも、数倍も慎重に構えてシャッターを切るようにしています。
 軽すぎるのも考え物で、もっと重たい代物だったら、慎重に構えて、シャッターを切った ときも指の動きぐらいで、安易にぶれたりしなくて良いのになどと思ったりしますが、非現実 的なことですね。軽さで売っている現代なのですから。

作例 2-8:ピンぼけ画像(オナガガモ♀) 作例 2-9:ブレ画像
共通データ カメラ:EOS1D、レンズ:100〜400mm(400mm)、絞り:f5.6、絞り優先AE

 実は、ピンぼけやぶれている画像は、ボツ画像で本来なら日の目を見ないはずなんですが、 飛んでいるときの画像ですから、恥を忍んで公表します。
 作例 2-3はほぼまっすぐにこちらに向かって飛んでくるカモですが、置きピン撮影 でシャッターのタイミングが遅れて後ピンになってしまいました。カモが少し前の タイミングで通過した地点にピントがあるので、そこにあるさざ波にはピントが来て います。
 作例2−4はやはり飛翔画像ですが、背景が少し暗めで、シャッタースピードも稼げない ため、流し撮り気味にカメラを右から左へと振りながら撮影しましたがタイミングが 合わずに完全に「ブレ」た画像になりました。鳥にはほぼピントが来ているのですが、ブレて いるので全体に眠たい締まりのない絵になっています。

7.「ブレ」との決別

 結論、コンパクトデジカメはブレ易いカメラです。虎視眈々と「ブレ」てやろうとあなたを 狙っていると言っても過言ではありません。心して写すようにしましょう。くれぐれも腰が 不安定な状態でしかも片手で構えてシャッターを切るなどという悪い見本のスタイルは、 しないように。あなたはスーパータ○キーでもスーパー○々子ちゃんでも無いのですから。
 一眼レフや一眼レフ風のカメラをお使いの幸運な方なら、まず取扱説明書にあるように、 アイピース部分に目を合わせ、額もカメラの上部に押し当て、多少鼻も潰れるくらいにしっかり と押しつけるようにして構えてください。そもそもカメラは右目でファインダーを覗くように 設計されています。(左利き用のカメラはあまり見たことがありませんね)最近の一眼デジカメ の裏面にはモニターや各種操作ボタンが多く並んで思うに任せないものもあるようですが、 これはカメラを構える場合の基本です。正しいスタイルでファインダーを覗くことが困難に 思えるカメラも多く見かけるようになってきましたが、お化粧が落ちるからなどとは言わずに、 大いに鼻ぺちゃスタイルで、良い写真をゲットしてください。
 ちなみに右目でファインダーを覗いているときに、筆者は空いている左目で回りの景色を見る ようにしています。鳥や昆虫類など動物が被写体の場合には、ファインダー外の情報は非常に 重要な意味を持ちます。これも慣れてきたら是非やってみて下さい。グンと視野が広がりますし、 とっさにいろいろな対応がしやすくなります。
 キャッチインフォーカスという、狙った箇所に入った瞬間を撮影しようとする置き ピン撮りにもこの見方が重宝します。
 この覗き方は、科学者が顕微鏡を覗きながらスケッチを描く場合に似ています。彼らは、 右利きの場合左目の顕微鏡像と右目で右側に置いた用紙上の自分の画像と重ね合わせるように 見ながらスケッチをするとプロポーションや間違いなどが簡単に見つかりかなり細かな内容まで 描きとることができるようになるようです。今はデジカメで簡単に撮影できるようになった ためにあまり実用にはなっていないようですが。


▼置きピン(おき……)
 仮に決めた位置に来たときの画像を得ようと、マニュアルフォーカスで撮影位置を決めて ピントをそこに合わせて待つ撮影法。
 カメラにあるタイムラグによる時間ズレを計算に入れて、少し前のタイミングでシャッターを 切るのが秘訣。

▼後ピン(あと……)
 狙った被写体より後の位置にピントが合ってしまった状態。
 反対に狙いより手前にピントが来ていることを「前ピン」という。

▼流し撮り(ながし・どり)
 動体を進行方向にほぼ平行な位置から撮影する方法の一種で、早いシャッタースピードで、 静止させて撮るのではなくて、比較的遅めのシャッタースピードを選択して、カメラを進行に 合わせて振りながら撮影する方法で、とにかく撮影位置からの被写体移動角度とカメラを振る 角度をシンクロさせることが秘訣で、そのためには狙った位置より手前から置きピン状態で カメラを振り始め、撮影が終了してからもしばらくはカメラを振り切ることが大切で、途中で 止めようと余計な力みが入ると、上下のブレなどが加わり失敗に繋がる。練習あるのみ…。
 ブレ防止機構の付いたレンズの場合、流し撮りが可能なモードにしておかないと異常な動きと レンズが判断し迷い出すので、注意が必要。

▼キャッチ・イン・フォーカス
 AFカメラが登場してから、話題になり出した撮影法で、あらかじめ撮りたい位置に置き ピンをしておいて、被写体がその位置に来たときにレリーズする撮り方。カメラによっては その機能を備えたアクセサリーが揃っていて、目的位置でAFロックをかけておき、シャッター を押しておくと、狙ったものがその場所に飛び込んだとき、測距センサーが察知して、自動で 露光してくれる装置で、ロボットカメラの真似事のような撮影もできる。

▼ロボット・カメラ
 写真家の宮崎 学氏が、「けものみち」シリーズの撮影のために開発した装置で、 メーカーの既製品には無いので、光電管のセンサーとそれに感知して働く長巻きフィルムを 装填したカメラの組み合わせで長期間無人撮影をした装置。