How to

第1章.基礎編(カメラの概要について)   

第7回.適正露出

その2


2.露出とは その2

d.露出
 第6回で露出を決める3要素として、ISO感度シャッタースピード絞り についての説明を書きました。
 ところが3要素は、物理的に感度であったり、露光時間、絞り値とまあ間接的にせよ、姿が 見えそうな代物ですから何とか、頭にはいるのですが。この露出という概念が一番頭を悩ませる 要素なのです。心して耳を綺麗に掃除をした状態で、正座で熟読してください。
 話がややこしくなるので、ひとまず「ISO感度」のことは、忘れてください。
「ちゃんと聞こえていますか?」「はい 感度良好です」なんて言うのは、別なときに… という意味です。
 「ISO感度」を無視すると、フィルム面あるいは撮像素子(以下、撮像素子)にレンズを 通った光が届いて(露光して)、感光するわけですが。闇雲に時間を長くしたからと言って 適切な画像が手にはいるわけではありません。「過ぎたるは及ばざるが如し」といって、 何事も程々がよろしいのですが、果たしてカメラは何を基準に適正と判断して、露光時間の 制御をしているのでしょうか?
 被写体の明るさだと、ほとんどの方は答えるでしょうが、正確には違います。
 被写体からの反射光をカメラの中にある、受光素子で測って、適正露出にするための露光量を 案配するのです。被写体からの反射光と言うことは、被写体の明るさ(反射量)から距離による 減衰量を差し引いて決まる明るさで様々な条件により刻々と変化する値で、もうかなり以前から TTL測光が当たり前になっていますので、フィルム面へ届くのと全く同じ情報で 的確に測光できますから楽になったものです。
 最近のニコンのカメラの一部は色の情報も読みとるようには、なったようですが大方は、 被写体が何色であるかを読みとることはできません。単にモノクロ光としてカメラへの入射光 だけを測っています。

 少し難しい話をします。
 さて写真の被写体として、シャドー部(暗部)とハイライト部(明部)の明るさの比率は、 被写体のコントラストとも、被写体輝度比などとも呼ばれる要素ですが、JISでは、明暗比を 1:32と定義しています。これを絞りあるいはシャッタースピードに置き換えると 5段階 (5EV)の差に相当します。ここで「EV」とは、露出値を表します。5段階の差とは、明るい 部分の露出が 1/125秒、F16 の時、暗い部分の露出が 1/125秒、F2.8 であることを言い、 1段毎の明暗比は 1:2ですから、5段分とは 1:2の 5乗すなわち、1:32になります。
 一方様々な明るさが入り交じった被写体の平均的な明るさはと言うと。これも、JIS では、 「自然界にある物体で、相当に明るく見えるものでもその反射率は、90%程度。反対に真っ黒に 見える物体でも3%程度の反射率がある」と解説しています。
 そこで、その平均値を計算するために、反射率の相乗平均値を求めてみます。

  相乗平均値=√90x3 =16.4%

 ここで、へんてこりんな表記になっていますが。気持ちは(90x3)の平方根を求めると、 おおよそ 16.4%になりますが、許容値を広げて 18% と見なしています。
 そこで、カメラの露出計は、万物の平均反射率
18% の物体から反射してきた光が適正に 表現できれば、両端の白も黒も、ほどほどに表現できるという判断で計測されます。

3.適正露出を得るために

 ある風景を何人かの仲間で一緒に撮影したとします。カメラなどの条件は同等と見なし、 できあがった写真を見ての品評会の時、ある人は補正値を+0.7 掛けたけど、充分に木の 葉っぱの色が出なかったと、悔やんでいました。また別の人は、同じく−0.7 と露光を絞り 気味に押さえたのに、光が廻りすぎて雰囲気を上手く表現できなかったと… また別の人に 聞けば…
 ことほど左様に、写真の場合適正露出に対する感じ方は、人それぞれ異なってくるものです。 一つの風景の中に、絶対的なインパクトがあり、誰もがそれを認めたとしても(たとえば富士山 や東京タワーなど…)撮影者の意図がそれらを主題と見なすか、副題としてあくまでも控え として捉えたいかなどが様々な意志で、撮影できるところが写真の楽しさであり、また奥が 深いところとも言えるのでしょう。まして主題が何かと問われて上手く説明ができない場合 などは特に…
 でも、いくら趣旨が異なるからと言って、適正から大きく外れて見るも無惨な 状態になっていては、いくら弁明を続けて見たところでむなしいだけで。やはり先ずは 適正露出という考え方を体で感じて置いてから、応用へと移るべきでしょう。
図 1-12:露出の概念
 言葉だけではなかなか 分かり難いでしょうから、概念をコップに水を溜めることで考えて みましょう
 便宜的な話なのでコップの容量は、相当量入るものとします。まあバケツのような大きさ とか…
 このコップに蛇口から水を注いで、適量(=適正露出)になるようにします。蛇口には種類が 沢山あり大口径の方から、F1、F1.4、F2 と絞り値と同様な数列に、F22まであるとし、それぞれ 口径の関係も絞り値と同様とします。蛇口の元には電磁弁が備わっていて、こちらはシャッター スピードと同様な時間注がれるように数列値通りにプログラムされています。
 過去の経験から、適正と目盛られた線まで注ぐのに、Aの場合 F2 の蛇口だと、1/1000秒の 時間で入ります。一方、Bでは F8 と細目の蛇口で注ぐときは1/60秒の時間を要します。この ときAの16倍の時間が掛かった計算になりますが、蛇口の口径面積は1/16と小さくなって いるのでつじつまが合っていることになるのです。
 F4 の蛇口でやれば、1/250秒、蛇口F5.6 だと 1/125秒 と言った組み合わせで、皆同量の 水を溜めることができます。

a.露出補正
 まさに平均的反射率に近い反射をする被写体ならば、カメラのオート任せで、充分に適正 露出の写真が得られることになり、きわめて便利なものなのですが、こと機械のことですから、 条件が一つでも崩れてしまうと、撮影者が耳打ちをしてあげないといけなくなります。それが すなわち露出補正という技法です。
 ここで、実験として限りなく白く見える壁をスポット測光で測った値が 1/250秒、F22 だと します。また、別の箇所にある黒塗りのつや消しベンツを同じくスポット測光したら 1/250秒、 F4.0 の値が出たとき、その測光通りの露出値で撮影したら結果は、両方共に灰色に正確には 18%の灰色に表現されます。これは撮影結果が即写真になるポジフィルムを用いないと、 シビアな結果は出ませんが、いずれの場合も元の色とは、全く違ったグレーに写ってしまう のです。
 これは一体どうしたことでしょうか? ここに先ほどから触れている写真露出の謎が含まれて いるのです。すなわちどちらの場合も、ほとんど単色の状態でカメラの露出計頼りに撮影をした 訳ですが、カメラの露出計には、色の信号は計算されないので、モノクロのしかも 平均的露光量 18% のグレーな被写体が広がっていると思いこんでいるのです。
 一所懸命に撮影者の意志を組み込もうと、頑張って グレーに写してくれたのに、文句を 言ってはいけません。その場合は、カメラを使っているあなたの不勉強が、この結果をもたらし たのですから… そこで、もう一度方法を考え直してみましょう。先の白い壁の反射率は 90% 露出計基準のグレーが 18%ですから、その白はグレーより 5倍(=90/18)ほど明るいことに なります。
 1EV が2倍の露出差ですから5倍多い露出( 2絞り〜2絞り半オーバー)で撮影すれば、その 白い壁は元通り白い壁として表現できるというわけです。これを+2.5EV の露出補正を掛ける と言います。逆に黒い方も同様に黒い車の反射率が 3〜4% だとすれば、グレーからすると 約1/5(=18/3〜4)の明るさとなり、露出値の 1/5 に押さえた露出(2絞り〜2絞り半 アンダー)で撮影すれば、黒くちょっとあぶないベンツとしてきちんと表現できるという 案配です。
 ですが、ここで一つ注意をしてください。白い壁は真っ白に表現されて一件落着のように 見えますが、実は世の中そうは簡単に済まないものです。塀越しにあるちょっぴり勢いが失せた 松なんかがあったりすると、その松は白壁よりは、遙かに暗い被写体なので、完全に露出不足に 陥ります。これは白壁を助けるか、松を生き返らせるか、思案のしどころというものです。 もうこのままでは、八方ふさがり万事休すと行きかねません。ここは補助光という手段か レフ板などで、明るさを足してあげるしか手はないようです。その辺の補助光などについては、 また別の機会に、作例を元に触れるつもりです。
 一般的には、写真などの画像が大きな面積を占めていない、平均的な新聞紙の全面を広げた 順光状態が、18%グレーに、また富士フイルムのパッケージも緑色の部分が 18%の反射率の ようです。
 コダックなどからも、18%グレーの「グレーカード」が販売されていて、灰色の裏面は 90%の 白ボードとして、露出測定用に広く使われています。
図 1-13:露出補正の概念
 今度の図は、先ほどと同様な条件でコップに水を注ぐのですが、煩雑になるために蛇口は 任意の一つだけに絞って考えてみましょう。
 真ん中のBの適正ラインまで水を溜める状態を、適正露出と考えます。左は「+1補正」、 右は「-1補正」を意味します。
 蛇口を任意のものに固定していますから、Aの「+1補正」は、注入時間でコントロールして 適正値に 1段シャッタースピードを遅くして調整してあげるとつじつまが合います。逆にBの 「-1補正」にするためには、適正値から 1段分シャッタースピードを早めて(切りつめて) あげれば良いことになります。


▼TTL(ティ・ティ・エル)
 「Through the Taking Lens」の頭文字をとってこう呼ぶ。カメラのレンズを通った光を、 各社独特な方法で露出計へと導き測光する方式で、それまでの外部測光では、レンズの画角差や パララックス等により誤差が出たが、この方式になり、よりシビアに測光できるように なり測光精度が上がった。純粋な日本の技術で、今は精密機械測定器のメーカーとなった、 トプコンの「REスーパー」という一眼レフが市販化第 1号機とされる。その後各メーカーとも この測光方式が一眼レフでは常識となり今日に至る。

▼パララックス(parallax)
 二つの異なった場所から同じ物を見た時の網膜像や視方向の違いのこと。両眼で立体や遠近を 異にする対象物を見た時に生ずる視方向の差や両眼間の網膜像の差異を両眼視差・網膜像のずれ という。そのほか頭や身体を移動した時の運動視差などがあり、それらによって遠近や奥行の 知覚が生ずる現象。<広辞苑>
 写真では、ファインダーの視野と実際に撮影される画面との差を表し、一眼レフの場合は、 同じ画像を見ることができるので、パララックスは存在しない。

▼ポジフィルム(positive film)
 リバーサルフィルムとも言います。日本語は「陽画」を当て「陰画」のネガフィルムと、 対照な製品。写真用カラーフィルムのもとは、映画用のフィルムです。こちらは当然ながら、 透過光を当てることで、陽画が見られるようになるフィルムでもっぱらスクリーンに投影 することが目的の品物でした。1930年代にネガフィルムが発売されて、紙焼きも可能に なりましたが、直に撮影した色が確認できるメリットは、はかり知れません。
 現在では、ダイレクトプリントという方法で、ポジからでも紙焼きが可能になっているが、 もっぱら出版関係への出力に特化したフィルムとも言える、しかしデジタル化の波に押され 往年の人気には陰りも…。

▼モノクロ(monochrome)
 モノクロームの略で、単色画や淡彩画を表し、白黒の写真を示す。