How to

第1章.基礎編(カメラの概要について)   

第5回.光と影

その2


3.フィールドでは
作例 1-16:顔1 (「顔」−「冬」−16) 作例 1-17:顔2 (「顔」−「冬」−11)
共通データ カメラ:EOS1D、レンズ:100mm、 絞り:f2.8(作例1)3.2(作例2)、絞り優先AE、露出補正:+0.7

 前回は光源と被写体との位置関係で、見え方が変わるという説明で書いてみましたが、 頭の中で何となくそういうものなのかと、おわかり頂けたでしょうか?
 今回は実写した画像を参考にもう少しいろいろなものを見てみたいと思います。
 まず作例 1-16は、先日からはじめた「顔」シリ−ズの木肌を撮った画像です。
 順光状態で幹の直径も 25cmほど有り大きな陰影は出ていませんが、顔の輪郭とも見える 額の箇所に皮の厚みでできた影が見える程度です。冬の太陽光線が一番低い時期の撮影なので、 この程度ですが、夏の角度が高いときならもっと大きく出ていたでしょう。満遍なく光が 当たっているので、唯でさえ平面的なサークル内がお盆のように見えています。
作例 1-18:ツタ 1(「秋」-「晩秋-2」-37) 作例 1-19:ツタ 2(「秋」-「晩秋-2」-06)
共通データ カメラ:EOS1D、レンズ:100〜400mm、 絞り:f5.6、絞り優先AE、露出補正:+0.7
 作例 1-17は、先の例より立体的な被写体なので、光線具合が真横からの光になる時間帯を 待って、撮影しました。順光の時だったら、彫りの深い顔を表せません。個性を強調する 光線を得てひときわ輝いたのです。逃げない相手の場合は特にシャッターを押す前から、 そのあたりの雰囲気を良く掴んで撮影に臨み、光の状態などが気に入らないようならば、別の 時間に再挑戦するくらいの心構えも必要でしょう。
 作例 1-18は、雨上がりの紅葉です。当然葉にはまだ水分が残っていて、その照り返しが 狙いの中心です。いろいろな方向に向いた葉によって、表面の反射具合が変化し元は同じ色の 紅葉でも、かなり色の濃度にバリエーションが生まれています。作例 1-19の画像と比べても 曇りで光が良く廻って葉の表面からの光のみを画像として記録していますので、葉っぱがヤケに 厚ぼったく見えています。
 作例 1-19は、逆光側からの撮影で、今までの逆光作例では、ラインライトに特徴を見い だしてきましたが、このように被写体が光を透過するものだと、もっと際だった効果が得ら れます。透過光の常として、紅葉色の彩度が上がることはもちろんのこと、先の例では厚 ぼったく見えていた順光側から一変して、被写体の薄さを強調できると言えます。
作例 1-20:キチョウ 1(「夏」-「晩夏の昆虫」-32) 作例 1-21:キチョウ 2(「夏」-「晩夏の昆虫」-31)
共通データ vs ヤマハギ  カメラ:EOS1D、 レンズ:100〜400mm、 絞り:f5.6、絞り優先AE、露出補正:+0.7
作例 1-21ストロボ同調
 作例 1-20は、順光撮影です。枝や花の影が翅に映って一寸煩くなっています。4mほど離れた 背景の部分にも良く陽が当たり明るく撮れていますが、翅裏の鱗粉が光を反射して、 又そもそも黄色い色は実際以上に彩度が高くカメラのオート任せだと、露出オーバーの傾向が あるので注意を要します。
 緑の葉に囲まれた撮影なので、翅裏の黄色に緑色がかぶっていますが、先の鱗粉のことも あり、ストロボ同調は、見合わせました。偏光フィルターを上手く使えば、反射による 照りを防ぐことができるかも知れませんが、動き回る被写体で、効果のほどを確認しながら 撮影することは、あまり現実的とは言えません。
 一方の作例 1-21は、逆光で狙っていますから、先ほどのような白飛びは、透過光のため起 こり難く綺麗に翅表ツマ部分にある黒斑が透けて見えています。当然周辺にある葉っぱなども 透過光の中にあり、全体として、メルヘンチックな雰囲気を出せました。この画像の場合は、 ハギの透過光中に多く含まれる緑色が翅裏のトーンを沈ませてしまうと判断し、日中 シンクロでストロボ焚きました。         
共通データ
vs ハナミズキ
カメラ:EOS1D、レンズ:100〜400mm、絞り:f5.6、絞り優先AE、露出補正:+0.7、 ストロボ同調
作例 1-22:シジュウカラ 1(「秋」-「秋-3」-36) 作例 1-23:シジュウカラ 2(「秋」-「秋」-52)
共通データ
カメラ:EOS1D、レンズ:100〜400mm、 絞り:f5.6、絞り優先AE、露出補正:+0.7、ストロボ同調
作例 1-24:メジロ 1(「冬」-「冬-2」-09) 作例 1-25:メジロ 1(「冬」-「冬-2」-03)
データ
レンズ:600mm、絞り:f4、RDP、 絞り優先AE、露出補正:+0.7、ストロボ同調
作例 1-26:ヒヨドリ 1(「冬」-「初冬」-02)
カメラ:F4E
作例 1-27:ヒヨドリ 2(「冬」-「初冬」-04)
カメラ:EOS1N


 作例 1-22〜27は、左の順光撮影と右に逆光撮影を比較して見ています。順光側からの画像を 単独で見た場合は、気がつかないものの、逆光画像と直接比較すると雰囲気がこんなにも 違うのかと改めてビックリするのではないでしょうか。
 画面がクリアに見えるのは断然左の順光状態です。問題なく綺麗に撮れています。失敗の しようがないと言っても良いくらいです。
 右側の画像、特に「1-25」や「1-27」は微妙なニュアンスの空気が写し込められています。 低めの太陽光線を逆光で受けて、一般的にあまり良いとは言われない敬遠されがちな条件で 撮影していますから、失敗する可能性を大いに含んでいます。それでも敢えてこちら側から 写すのは、これらの光を写し止めたいという願望なのです。
 「1-22」のサザンカに対して「1-23」はボケと葉っぱの厚さがアンフェアーな例でしょうが、 上下の「1-22」「1-24」に対して「1-23」「1-27」は同じ樹種同士の光線具合で、 葉っぱの感じがこんなにも違って見えています。順光の造花ならぬ造葉みたいに精気が感じ られない印象と、光輝く透過光越しの葉。全コマに共通して日中シンクロでストロボを同調 させていますが、順光の場合は念のために影ができないようにと言う程度に対して、逆光の 例では、ストロボ無しでは鳥の体が黒潰れを起こして見られなくなってしまいます。必須 アイテムなのです。何もストロボは、夜間撮影にのみ使うアクセサリーではありません。 逆光や半逆光時に、以前書いた影起こし、レフ板の役目を担ってもらっているのです。
 今度は背景に注目してください。もちろん様々な条件によって一概には言えませんが、順光と 言うことは、たいてい背景部分にも、一様に陽が当たって主題の箇所と似たような光線状態に なっていることが多いはずです。主被写体と背景とがそれぞれあるいは、どちらかが特殊な 色彩の場合は別として似たような色彩の場合は、ボケのみで主題を引き立たせる策しかとれ ずに、変化に乏しい絵柄になってしまいます。対して逆光ですと透過光に輝く背景あり、影で 沈んだ色の背景あり、ワクワクしてきそうなシチュエーションが盛りだくさんありで撮影する ことができます。
 「1-23」の場合などは、画面フレームの直ぐ上に太陽がきており、レンズに付属のフード だけでは、レンズに直に太陽光が入り込むために、段ボールの片面を黒いスプレー塗料で 吹き付けた特製のエクステンションフードを巻き付けて撮影しています。フードで太陽光線を カットしてあげないと、フレアという現象が起きますから、注意してください。
 なんやかやと、問題点も多いし、装備も増える、補正だのストロボだのと難しい組み合わせ も多用せねばならず煩わしくも見えるでしょうが、その苦労の先にはほほえみかける女神が あなたを待ってくれています。

 くれぐれも注意しないといけないのは、瞳孔に焼けこげを作りたくない人の為に。太陽光を 直にレンズで覗かないこと。


 ■総合復習
 全体として、順光状態では、被写体の色と形が適切に表現できるため、識別を目的とする ようないわゆる「図鑑写真」向きの画像が得られますが、逆光は、被写体がいる回りの空気 までも一緒に写し込むことができる光線です。逆に言えば、順光状態でいくら頑張っても、 空気を一緒に写すことはできないと言えるわけで、実際には存在している空気の存在すらも、 気づかずに目的の被写体のみに目を向けてしまう撮影者の気持ちを暗に、代弁しているとも 言えます。
 逆光での撮影の場合は、順光の時のように、カメラ任せのオートでパーフェクトに撮影できる わけではありませんので、それなりの熟練と勘も必要になります。いきなり明日から熟達の域に 達しようとはせずに、少しずつトライ・アンド・エラーの精神で、克服していって欲しいもの です。
 それにはまず、撮影するときには、メモ帳を必ず携行するように心がけ、露出の補正値を初め したノーマル状態から変更させた項目やら、撮影状況で何か気になった点などを、箇条書きで 良いですから、メモ魔になって記録を取っておくことです。新しい植物の芽吹きの記録でも。 見かけた昆虫のメモでも、お昼に食べたお弁当の舌触りでも結構です。味覚から後になって、 記憶の糸を通じて、撮影日のお天気具合や、往復の道すがら出逢った出来事なども思い出すこと ができるようになるはずです。
 具体的にカメラ側の設定では、今までプログラムオートでばかり撮影していた方ならまず絞り 優先オートで、絞りの値を自分で設定することから、はじめてみましょう。
 この講座をお読みになっている大方の皆さんは、花や昆虫、あるいは鳥など、比較的小さな ものを被写体として、狙っておいでの方だと思われます。極端に言えば、第2回目の中で記述 した「パンフォーカス」の撮影法では、被写体は背景の中に埋没してしまい、見るものに何を 撮ったのか理解してもらうことすら、できないと思われます。そういう場合は、可能な限り、 絞り値を開けた状態(絞り値の数字を小さい方にセットすること)にして撮るように心がけて 見てください。
 よく間違った思いこみで、絞り値を開けて撮ると、被写界深度が浅くなりピントが上手く 合わせられなくて、ピンぼけの写真ができたと仰る方がいるようですが、たいていそういう方の 絵を見せていただくと、ピンぼけではなく見事にぶれて(カメラブレと被写体ブレのどちらか、 あるいは両方)いる場合がほとんどです。最近のAF(オートフォーカス)カメラである程度の 大きさ以上の被写体の場合合焦率は相当なもので、ピントの中抜けや狙った ものより手前にコントラストが高いものがある場合に、カメラが勘違いを起こしてそちらに 合焦する状態でも無い限り、ピントはそこそこ来てくれるものです。
 逆に絞り値を小さく設定すると、相対的にシャッタースピードが遅くなり、先ほどのぶれる 確率を高くする元にもなりかねないのです。コンパクトデジカメの場合など、レンズの焦点 距離も35ミリ判カメラよりずっと短いものを使って、それでなくともパンフォーカス気味に 撮れてしまう機械なのですから、絞り込みは「百害あって一利無し」とお考え下さい。

 ▼翅裏(しうら)
 昆虫類の羽を「翅」と呼び、腹側の面を翅裏という。
 背の側を翅表(しおもて)と呼ぶ。

 ▼偏光フィルター(へんこう…)
 光の整流効果をするために用いるフィルターで、2枚の櫛目状の半透明な膜を貼り付けた ガラスでできていて、回転させながら効果を確認することで、水面や葉など光の反射を防い だり、空の青さをコントロールできる。当初は平行な櫛目の単純なもので用が足りていたが、 最近の一眼レフのミラーに広く半透膜が使われるようになり、円周方向の櫛目膜を用いた 円偏光フィルタが一般的になった。
 効果をファインダーで確認しながら、撮影しなければならないため、一眼レフタイプの カメラでないと原則的には使うことができない。
 特殊フィルターなどもおいおい、後で触れてみたいと思います。

 ▼日中シンクロ(にっちゅう・synclonize)
 明るい中でストロボを同調させ発光させること。
 夜間撮影とは異なり、その状況に応じた露光値とのバランスをいかに保つかが、ポイントと なる。朝夕又は日陰状態で露出値が低い状態での撮影をスローシンクロと呼ぶ。

 ▼合焦率(がっしょう・りつ)
 カメラでピントが合う確率のこと。特にはオートフォーカス・カメラで合わせ難い被写体に 対して用いる場合が多い。

 ▼ピントの中抜(…なかぬけ)
 左右または上下に複数ある被写体の中央付近に空きがある時、特に中央の1点にしか フォーカスエリアの無いカメラの場合には、真ん中の抜けた状態の遠方にある予期しないものに 焦点を合わせてしまいます。カメラのファインダーの中で確実に合焦している被写体を確認して いないと、そのままでは、手前にいる被写体にはピントの合っていない写真が撮れることに なります。
 このようなことが置きそうな場合には、フォーカスエリアをファインダーで覗きながら、 合わせたい被写体に持ってゆき、シャッターボタンを軽く半押しすることで、オートフォーカス をロックした後に、構図を合わせ直しをすることで、きちんとピントが被写体に来た写真を 撮ることができます。また最近の高級カメラの場合は、中抜けを防ぐようにフォーカスエリアを 複数個分散させてある機種も多くなってきました。そのカメラとても、エリアで無いところに 被写体がある場合には、正しくピントが合いませんので、必ずカメラに自分が撮りたいものを 認識してもらう手順を踏んでから、シャッターをリリースするようにしましょう。

 ▼フレア(flare)
 太陽光などの強い光線がレンズ内に直接入射することにより発生する現象で、組み合わせた レンズの表面で何度も続けて反射した光が、断続的に連続した光跡となって画面の中まで写り 込みコントラスト下げてしまう。また、これによって生じた写真のかぶり。光斑。