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第1章.基礎編(カメラの概要について)   

第3回.レンズの被写界深度

その2


3.被写界深度とは  その2
 
作例 1-3:35mmレンズ 作例 1-2(前出):20mmレンズ
共通データ カメラ:EOS1D、絞り:f2.8、 絞り優先AE、露出補正:+0.7、1mで撮影(以後特記以外)
作例 1-4:100mmレンズ、絞り:2.8、1mで撮影作例 1-5:100mmレンズ、絞り:2.8、2mで撮影
作例 1-6:100mmレンズ、絞り:5.6、1mで撮影 作例 1-7:100mmレンズ、絞り:5.6、2mで撮影
作例 1-8:100mmレンズ、絞り:11、1mで撮影 作例 1-9:100mmレンズ、絞り:11、2mで撮影
 作例 1-3は、35mmレンズでの撮影で、絞り値が同じでも 20ミリレンズの作例 1-4と比較 して、明らかに前後のフクロウのボケが大きくなっていることがおわかり頂けると思います。 レンズとして 1.75 倍の焦点距離のレンズですから、これくらいの差は当然でしょう。
 レンズによるボケ具合の差は、絶対的なレンズ焦点距離の差ではなくて、相対的な焦点距離の 倍率差と言って良いでしょう。これはレンズの画角に付いても同様のことが言えます。
 今までは、広角系のレンズについて被写界深度が、実際の撮影画像でどのような 違いがあるかを見てきましたが、以降は、望遠系のレンズの被写界深度も見てみる ことにします。
 作例 1-4〜9は、左側が 100mmレンズを撮影距離1mでの比較、右側が同じ 100mmでも 撮影距離を 2mと、離れたところから撮ってみました。
 上から絞り値を 2.8、5.6、11 と大きくしていますから、作例 1-4→6→8、作例 1-5→7→9と 下がるに従い前後のフクロウにもピントが合って来ます。
作例 1-10:200mmレンズ、絞り:2.8、2mで撮影 作例 1-11:200mmレンズ、絞り:11、2mで撮影
 作例の参考としてより焦点距離の長い 200mmのレンズでも、試してみましたので、 ご覧になって下さい。最短距離の関係で 2m地点からの撮影のみです。
 絞り値は左が 2.8 で、右は 11 です。
図 1-4:撮影状況見取り
 図 1-4は、前回も出てきた、撮影時の位置関係を示した図です。

 まとめとして、レンズは、焦点距離が長くなれば、被写界深度は、浅くなります。 また、同じ焦点距離でも絞り値が大きい方が(口径が大きい)被写界深度は浅くなります。 同様に被写体までの距離が近いほど深度が浅くなります。

 被写界深度の癖(特質)を不等式で表してみると(「>」で左側が大きいことを示します)
・レンズの焦点距離:     短い>長い
・同じ焦点距離の時の絞り値: 暗い>明るい (暗いとは数字が大きいこと)
・被写体までの距離:     遠い>近い
・焦点が合っている被写体の: 奥側>手前側
    
 上の不等式をよく見てください。いわゆる、コンパクトカメラやコンパクトデジカメは、 式の左側を利用して、ピントを合わせ易くした組み合わせで、カメラを作っています。 誰が写しても、ボケのない画像が得られるようにです。
 反面、右の組み合わせにすると、逆にピントの幅が狭くなります。


▼広角系レンズ(こうかく・けい………)
 標準レンズ(50mm:対角画角 46゚ 35ミリ判カメラの場合)より焦点距離の短い レンズの総称で、広角レンズ(28〜35mm:対角画角 75〜63゚)、超広角レンズ(24mm:対角画角 84゚ 以下の焦点距離)、魚眼レンズなどがあるが、魚眼以外の区分はきわめて曖昧で 数十年前までは、28mmは超広角レンズ扱いだったが、レンズ設計が昔ながらの手計算から コンピューターへとバトンタッチする中、容易により短い焦点距離レンズ設計も各種収差 を克服して可能になり、広角レンズの範囲に含まれるようになった。
 広角系レンズは単に画角が広いと言うだけでなく、近くのものは大きく、少し離れたものは、 小さく写る癖があり、それを生かして撮ると、遠近感の誇張された画像を得ることができ、 被写界深度を深くとれる特質と相まって、独特の写真が写せる。

▼対角画角(たいかく・がかく)
 レンズを焦点面で写せる範囲を角度で表示する方法で、画面上矩形の「水平」と「垂直」に、 その「対角線」との3種表示があるが、特別な表記が無い場合は、対角線画角を表す。

▼魚眼レンズ(ぎょがん………)
 画角が180゚以上ある特殊広角レンズで、対角魚眼(画面の対角線で写角180゚をカバーする もの)と全周魚眼(画面内に内接する円形に写角180゚をカバーするもの:短辺方向で)の 2種ある。

▼収差(しゅうさ)
 先ずは理想のレンズの定義です。(ニコン:ニッコール註釈集より抜粋)
 1. ある物体の1点から発せられた光がレンズを通過後、焦点面で完璧に1点で結像できる 性能を持ち合わせていること。
 2. 物体が光軸に垂直な平面のとき、像面も光軸に垂直な平面であること。
 3. 物体と像(ここではフィルム面上の像)の形が相似であること。

 ところが実際のレンズには光の屈折の法則そのものに起因して生じる結像の欠陥が存在し ます。この欠陥を「収差」と称し、19世紀の中頃ザイデルによって研究解析された単色光に よる「収差」(ザイデルの5収差)と、光の波長が異なることにより生ずる2種類の 「色収差」が報告されている。

▼ザイデルの5収差
 レンズに現れる収差を、オーストリアの数学者 ザイデル (L.Seidel 1821〜1896)が五つに分類して特徴づけたもの。

 1.球面収差(きゅうめん・しゅうさ):
 レンズの表面が球面(スフェリカル)であるために起こる収差で、レンズの各口径箇所により 焦点の位置にずれが生じ、点に結像せず光軸付近の結像も円に見える。
 主には凸レンズと凹レンズを組み合わせることで改善したり、レンズの口径を小さく(絞り 込む)ことで改善される。

 2.コマ収差(coma……):
 コーマとは、流れ星、彗星の尾や周辺の髪の毛に見える部分のことで、斜めにレンズへ入射 する光が、レンズ通過後に尾を引くかのように像が流れる収差。球面収差が補正されたレンズ でも生じる。
 主には絞りを絞り込むことで改善される。

 3.非点収差(ひてん・しゅうさ):
 レンズ周辺部で、レンズの放射線方向と同心円方向の焦点が一致しない収差で、像としても 二方向からの光が交錯するために、点が楕円形に流れたり滲んだ像に見える。
 絞る事によって目立たなくなるが、本質的には改善されない。

 4.像面湾曲(ぞうめん・わんきょく):
 今までの上記3つの収差とは異なり、点像としてはきちんと結像するが、レンズ中心部と 周辺部との焦点面位置が徐々にずれてきて、同一面に結像しない現象で、平面的な被写体を 撮影した場合に中心部にピントが合っていても周辺部はボケたり、またその逆となって表れる。  絞る事によって目立たなくなるが、本質的には改善されない。

 5.歪曲収差(わいきょく・しゅうさ):ディストーション
 像面湾曲と同様点像としてはきちんと結像するが、像の形状が変形する収差。
 形状から「タル型」と「糸巻き型」そしてその二つが複合した「陣笠型」がある。
 絞る事による改善効果は無いが、適切に凸レンズと凹レンズを組み合わせることで改善する。

▼色収差(いろ・しゅうさ)
 単色光により生じるザイデルの収差とは異なり、光の波長の違いにより生じる光軸上の結像 位置が異なることで起こる「軸上色収差」と、画面周辺部に行くに従って像倍率の違いが生じる ことで起こる「倍率色収差」とがある。ともに色の滲みとして症状に現れるが、モノクロの 画像でも発生し画像のシャープさをそこねる原因となる。
 主には凸レンズと凹レンズを組み合わせることで改善したり、異常低分散ガラスなどの 採用による効果が高い。

▼望遠系レンズ(ぼうえん・けい………)
 標準レンズよりも焦点が長いレンズを表し、中望遠(中焦点)レンズ(85〜200mm:対角画角 28〜12゚ )と超望遠レンズ(300mm:対角画角 8゚ 以上)とがある。
 望遠系レンズは、画角が狭いと言うことで、遠くのものをぐっと引きつけて撮影できる。風景 写真やスポーツ、動物写真、そしてポートレートなどいろいろな場面で多用できるレンズだが、 被写界深度が浅いことを利用した、前後のボケを生かした撮影法、また逆に絞りを絞り込んで 使う場合に、遠近感を圧縮して見せる効果が生まれる。

▼画角 8゚ 以上
 レンズ表記の焦点距離と画角は反比例の関係にあることから、焦点距離が長くなると、 反対に画角は小さく(狭い範囲が写ること)なる。