How to

第1章.基礎編(カメラの概要について)   

第2回.レンズの被写界深度


1.ボケとは

図 1-3:合焦とボケ
 前回の凸レンズを説明した絵を一部書き換え、一番右側縦に焦点面でのピント状態を模式的に 表し直してみました。
 遠くにあるごく小さな点を写すと仮定します、光軸上にくっきりと小さな黒丸が、見えた時が 合焦状態です。
 レンズがこの状態より、前でも後にでも、ずれると、焦点面に投影される画像は、合焦状態よ りも大きくなり、おまけに芯から周辺に向かってなだらかに、滲むボケ状態になります。
 ここで焦点面からレンズを見て背中方向(焦点面の裏側)に焦点を結ぶ状態を 「後ピン」、反対にレンズ側(焦点面の手前)で光跡が交差する状態を 「前ピン」といいます。
 すなわち、ボケた状態とは焦点面以外の前後のどこかで像を結ぶことを表します。
 従って、実際には、合焦状態からいきなり大きくピントが外れる(ボケる)訳ではなく、 段階的にボケてゆくものです。そこで多少像が大きくなっても点として見える限界の大きさを、 「許容ボケ」といい、その大きさはカメラのフィルムあるいは、撮像素子のサイズによって 異なりますが、例として35ミリ判フィルムの場合は、後に引き延ばして鑑賞する画像サイズから 一般に直径1/30ミリほどに設定されています。
 これは、35ミリ判フィルムでは、先ほどの直径1/30ミリ以上の大きさの点はピントが甘く、 つまりぼけている状態に見えることを表します。

2.被写界深度とは

作例 1-1:20mmレンズ、絞り:11、1mで撮影 図 1-4:撮影状況見取り
 作例 1-1の画像は、右にある見取図のように 10センチごと等間隔にフクロウのミニチュア を置いたものを、(左から3番目の)止まり木のある背の高いフクロウにピントを合わせ、 カメラは三脚に固定して撮影した画像です。但し他の条件の画像と比較がしやすいように (これはレンズ画角の問題で)中央部分4%ほどをトリミングして大きくしました。(以降 全て、ほぼ同じ範囲が表示できるように、トリミングをしてあります。)
 撮影は1mという、比較的近距離で、レンズは20ミリの広角レンズを用いて、更に絞りも 11 と絞った状態ですから、深い被写界深度のお陰で前後のフクロウの表情もほぼ読みとれ ます。
作例 1-2:20mmレンズ、絞り:2.8、1mで撮影
 作例 1-2の画像は、レンズや撮影距離は先ほどと同じですが、絞りを 2.8 に開けて撮って います。一番大きな違いは、作例 1-1では、ぼけてはいるものの、4mほど後方にある立木の 樹皮パターンまで判読できることでしょう。これは、レンズの絞り値を大きくする(絞る) ことで、先の「許容ボケ値」以下に像を結ぶことができる範囲を意図的に広げた結果です。
 ここで「許容ボケ」以下の像を結ぶ撮影距離の範囲(ピントがあっているように見える 範囲)を、「被写界深度」といいます。
図 1-5:被写界深度(20mmレンズ、絞り:2.8、1m)
 作例 1-2の状態での被写界深度を分かりやすく、模式図にしてみました。
カメラから主被写体までの距離が1mでの被写界深度は 0.81m〜1.30mの範囲であることが 分かります。
 注目していただきたいのは、水平線の上に目盛った数字が距離を表していますが、物量系の しきたりに従い対数目盛で割り振ってあります。(このあたりは、少し難しいのでそんな ものか…とさらりと読み過ごしてください)
 カメラに近づくに従い目盛は徐々に広がり、反対に遠離るに連れて、詰めて表されて います。

 ここではレンズの「被写界深度」は、手前側には浅く、遠距離側へと深くなっているという 特性だけは大事なことですから覚えておいて下さい。つまり、ある塊の画像全体を被写界深度の 範囲内に納めようとするには、塊の中心付近にピントを置いたのでは、全体を被写界深度内に バランス良く納めることができず、必然的におよそ、全体の手前側 1/3 付近を目安にピントを 合わせて深度の範囲をコントロールすると良い結果が生まれます。
 それをもっと拡大解釈して、前後に撮影領域を広げたパンフォーカスを利用した 撮影法があります。
 難しい理屈は別として、

 写真を撮るという作業は、撮影者の手でこの被写界深度を自由に 操作する喜びとも言えます。

▼合焦(がっしょう)
 ピントが合った状態のこと。
 ほとんどのカメラは焦点面を固定して置いて、レンズを繰り出すことにより近距離に合焦 させるシステムですが、大判のカメラなどでは、レンズもフィルム面も前後させることができ、 スムースに合焦させられるよう工夫されたもの。また特殊な例として、コンタックスという メーカーから、小型一眼レフながらAF(オートフォーカス)機構をフィルム面に適用し、 前後させる事で本体内の限度があるものの、合掌させるカメラも存在した。

▼前ピン(まえ…)
 凸レンズの場合、無限遠からの光線による焦点面がそのレンズの焦点距離になるとは、 第1回のレンズの特性で説明しました。これは、この焦点距離より近い面では合焦しないと 言う意味で、無限遠より近くにある物体からの光は距離が短くなるに連れて、どんどんレンズ から離れて焦点を結ぶことになります。
 ある位置の被写体を撮影する時、そこより手前にある物体にピントが合った状態を見ると、 希望していたフィルム位置より、フィルム面とレンズが離れた状態にあり(図1の前ピン状態) そこから見合った分レンズを近づけてあげればピントが合うことになります。

▼後ピン(あと…)
 前ピントは反対に、被写体位置より後にピントを合わせてしまった状態で、現在の位置より レンズを無限側に縮める状態にしないと合焦しません。(図1の後ピン状態)

▼光跡(こうせき)
 光の実体は目に見えないものですが、空気中の微粒子などに光が当たると拡散してあたかも 光のラインが見えるときがあります。このように光を便宜的あるいは、概念的に捉えようと あたかも通るであろう、ラインのことを、この場合示します。
 写真では他に、長時間露光等で移動中の車両などのライトが描き出すラインを指したりも します。

▼パンフォーカス
 「被写界深度」を利用したテクニックとして、「パンフォーカス」という技法があります。 比較的短い焦点距離のレンズ(以降 短いレンズ)を用い、絞り値も許す範囲で絞り込み、 近距離から遠景までの広い範囲にピントが合うようにして撮った画像で、「深度の深い写真」と いう表現も用います。広がりを表現するときなどに使うと効果的でしょう。

◆アウトフォーカス
 パンフォーカスに対して逆に意識的にフォーカスの具合をコントロールしてぼかした画像を 前景や背景に入れることにより、主となる被写体を強調する撮影法として用います。アウト フォーカスとは単なるピンぼけとは異なり、狙ったものを積極的にぼかすテクニック です。