帰り記号



 

生保・要件

「最後のセーフティーネット(安全網)」といわれる生活保護だが財政難を背景に出し渋る自治体もあり、受給するのに身も心も引き裂かれる現実がある。

 

フードバンクかわさきを利用する田中里子さん(31)=仮名=も苦闘を続けた。幼い子ども三人を抱え、解体業の夫の手取り約二十万円で暮らしていた。元々余裕はなかったが、昨秋、子宮頸(けい)がんになる可能性がある前がん状態と診断され、生活が立ちゆかなくなった。検査代や入院費、今春一緒に幼稚園に入れた長男と次男の保育費…。三男のオムツを買うお金が尽きた絶望感で申請に踏み切った。

 

いったんは申請が認められたが、新年度になり生活保護の担当者が代わると、職員から「なぜ働けないのか」と責められるようになった。「働かないんじゃなくて働けない。見た目で判断しないで。なまけているわけじゃない」。検査で傷ついた子宮から出血が止まらない中、窓口で訴えたが、声は届かない。

 

記者は田中さんの生活保護を継続するよう役所に交渉に行く高橋さんに同行した。高橋さんの手には、生活保護に関する問答集や判例集などの資料がどっさり。「手ごわい相手」とみたのか、行政の態度は百八十度変わり、継続が認められた。帰り際、田中さんはほっとした表情に変わり、口数も増えた。

 

フードバンクかわさきの利用者には、生活保護受給者も多いが、近所のバッシングを極度に恐れて、申請しない人もいる。持ち家などを理由に受けられない人もいる。受給者数には含まれない貧困もこの社会には広がっている。「私たちへのSOSは、崖っぷちを通り越したギリギリの状態ということ。いつ死んだっておかしくない」。高橋さんの口調が強まった。(木原育子)

 出典

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201606/CK2016061902000249.html